序章 北東の風

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大臣は苦い顔つきのまま、黙りこんだ。  『鷹の目』は王の手先である以前に、神の意思を聞く者だ。それを傷付けたとなれば当然、王族の者たちからは批判の声が上がるだろう。もちろん、矢面に立たされるのは自分だ。  考えただけでも気が重くなる。  大臣はふっくらとした指で、こめかみを揉んだ。 「しかしながら、これはゆゆしき事態ですぞ。いくら陛下のご拝命とはいえ、神の御子を傷付けたのですからな」 「みなも承知した上での結果じゃ」 「そうはいっても、過ちを許さないのがこの国の臣下たちです。はてさて、宰相殿にはどう申し上げればよいか……」 「その必要はございません」 答えたのは男だった。 「宰相様は全てご存じです」 王は剣を手放し、目の前の若者をじっと見つめた。 「我よりも先に、宰相へと報告したのだな」 「ええ」 「件に関しては、事を内密に運ぶよう申しつけたはずだが」 「申し訳ございません。ですが、掟で決まっておりますので」 にべもない口調だ。さすがの王もこれには苛立ちを覚えたらしく、切れ長の目をすっと細めた。 「神が愛する国よりも、決まり事の方が大事か」 「……」 「霧中に潜む敵を、日に晒されながら見つけよと? 」 大臣は頬のほぞを噛んだ。今の例えは悪すぎる。天を統べる、太陽神の息子らしからぬ発言だ。  案の定、男がニタリと笑った。 「はて。日に晒されるとは、妙なことをおっしゃる。まるで、ご自身が人であるかのような口ぶりですな」 王は顔色一つ、変えなかった。 「……母なる女神の前では、我などちっぽけな小虫にすぎぬからのう」 「そうですか」 「そなた、陛下の御前であるぞ。無礼な発言は控えよ」
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