2人が本棚に入れています
本棚に追加
おそらくは、王妃自身の素質が関係しているのであろう。日陰に咲く花のような美しさが、彼女にはあった。
「まあ。確かに、具合が悪そうですね。今日は氷枕を当てて、午睡を多くとりましょう。昨晩は暑うございましたから」
「そういうあなたは、眠たそうね」
シレンは思わず微笑んだ。まるで対等の立場であるかのように、侍女にも心配りができる。美しくて優しいこの女人が、シレンは大好きだった。
「私は、横にさえなればすぐに治りますから。殿下はそうはいかないでしょう。巫女たちから頂いた御石が残っていますから、水に浸して使いましょう」
「月の御石……」
薄氷色の目が、わずかに揺らいだ。
「宰相様に知られたら、きっとお叱りを受けてしまうわ」
「ならば、話さなければいいのです」
王妃は首を横に振った。
「あの方は恐ろしい方よ。何でも見通す力を持っているわ」
シレンは鼻で笑った。
「まさか」
「侍女たちが、ロトの民謡を歌っただけで注意されたのよ。あなただって知っているでしょう。あの時、周りにラトア人はいなかったはずなのに」
「衛兵が聞き耳を立てていたのでしょう」
「いずれにせよ、油断はできないわ。御石を使うのはやめてちょうだい。代わりに……」
王妃は少しだけ、口ごもった。
「唄い鳥を呼ぶのはどうかしら」
「なんですって? 」
「酔狂で言っているわけではないの」シレンの顔が強ばったのを見て、王妃は慌てて言った。「あの者の声を聴くと、よく眠ることができるのよ。一緒にいた侍女たちだって、同じことを言っていたでしょう?それだというのに、ユーリやあなたが止めるから」
最初のコメントを投稿しよう!