第一章 消えた耳飾り 01

3/9
前へ
/79ページ
次へ
おそらくは、王妃自身の素質が関係しているのであろう。日陰に咲く花のような美しさが、彼女にはあった。 「まあ。確かに、具合が悪そうですね。今日は氷枕を当てて、午睡を多くとりましょう。昨晩は暑うございましたから」 「そういうあなたは、眠たそうね」 シレンは思わず微笑んだ。まるで対等の立場であるかのように、侍女にも心配りができる。美しくて優しいこの女人が、シレンは大好きだった。 「私は、横にさえなればすぐに治りますから。殿下はそうはいかないでしょう。巫女たちから頂いた御石(みせき)が残っていますから、水に浸して使いましょう」 「月の御石……」 薄氷色の目が、わずかに揺らいだ。 「宰相様に知られたら、きっとお叱りを受けてしまうわ」 「ならば、話さなければいいのです」 王妃は首を横に振った。 「あの方は恐ろしい方よ。何でも見通す力を持っているわ」 シレンは鼻で笑った。 「まさか」 「侍女たちが、ロトの民謡を歌っただけで注意されたのよ。あなただって知っているでしょう。あの時、周りにラトア人はいなかったはずなのに」 「衛兵が聞き耳を立てていたのでしょう」 「いずれにせよ、油断はできないわ。御石を使うのはやめてちょうだい。代わりに……」 王妃は少しだけ、口ごもった。 「唄い鳥を呼ぶのはどうかしら」 「なんですって? 」 「酔狂で言っているわけではないの」シレンの顔が強ばったのを見て、王妃は慌てて言った。「あの者の声を聴くと、よく眠ることができるのよ。一緒にいた侍女たちだって、同じことを言っていたでしょう?それだというのに、ユーリやあなたが止めるから」
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加