第一章 消えた耳飾り 01

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「当たり前でしょう。宮廷つきでもない、ただの旅芸人を寝室に入れるだなんて。それこそ宰相様に知られたらどうなるか」 唄い鳥というのは、主に音楽で生計を立てている旅芸人のことだ。国から国へ流れるように旅をし、気ままに日銭を稼ぐ。本来なら、城門をくぐることすら許されない身分のはずなのだが、まれに腕の良い者が王族に気に入られて、城に招かれることがあった。  シレンは顔をしかめた。 「まさか、そのようなことをおっしゃるとは。殿下はもう少し賢い方だと思っていましたわ。御姉君のような、世間知らずではないと」 「大げさよ」 「いいえ。ユーリ様もおっしゃっていたでしょう。素性の知れない者、ましてや男の唄い鳥などを、何度も出入りさせてはいけません」 シレンはふぅ、と息をついた。 「殿下はあの詩人に肩を入れすぎています」 その言葉を聞いて、王妃はいたずらっ子のような笑みを浮かべた。 「心配しているのね」 「ええ」 「私が謎めいた男にたぶらかされて、逃げ出すんじゃないかって」 「そこまでは申しておりません」 「大丈夫よ。逃げやしないわ」王妃は視線を宙に向けた。「ただ、私は惹かれているだけなの。あの唄い鳥の声ときたら、まるで冬の太陽のように切ないんだから。恋歌なんかを聴いてごらんなさい……」 熱に浮かれた乙女のような口調だ。そう思わせるために、わざと演技をしているのかもしれない。  シレンはため息を深くした。 「今に騙されますよ」 「ふふ。そう思う? 」 「熱をお上げになるのはいいですが、ほどほどになさってくださいね。殿下が姦通罪で囚われるようなことがあれば、ロトに顔向けができませんから」
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