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クラスのイケメンに
ちょっと実験的に、同じ会話文を使ったそれぞれの視点の話を書いてみました。こちらは受け視点です。
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高校三年の11月、ウチの学校は進学校じゃないから、ほとんどの奴らの進路は決まっている。行事もないし、卒業まで特にすることのない、ぼんやりとした時間が流れる。就職する生徒たちからしてみれば束の間の自由な時間ではあるのだが、その就職する勢は「内定取消」という言葉をチラつかされると途端に気が小さくなる。オレもそんな奴らのひとりだ。
まぁでもオレはそもそも、ごくごく普通の地味な、通知表に「まじめにコツコツ取り組みました」みたいなことを書かれるタイプの人間である。制服だって着崩さないし、後輩に絡んだりしない。高校で始めた部活は特に活躍することもなく今年の夏に引退し、クラスでは浮くこともなく普通にいろんな奴と話す。成績は中の下、取り立てていうことのない普通の奴だ。
「おーい、ヤマシタ。お前、実は友だちいないん?」
「……ん、え?」
バッ!と顔を起こすとクラスでも殆ど絡んだことのない、一軍、というか……問題児というか、のニイミが立っていた。窓の外は真っ暗だ。……えっと?そうだ。確か、うっかり提出し忘れた課題があって、居残りで――寝落ち?で?ニイミが起こしてくれたのか。
「え、あ、ありがと!ニイミ!うわ、やっべ、プリント終わってない!」
「写す?」
「え、まじ?いいの!?」
「ん、はい。」
ニイミは何を考えてるのか、オレの前の席に座ってオレが答えを写すのを見ている。ニイミってもっとうるさい奴だと思ってた。ニイミは学校にひとりふたりくらいのイケメンだ。その上、いい感じに制服を着崩し、ウェーイな仲間たちとちょっと悪いことやってて、性に乱れてそうな(実際乱れているらしい)雰囲気が女子に人気で、モテる。とっかえひっかえしてる奴だから、コイツも仲間と同じウェーイ系だと思ってたけど――手元のニイミのプリントを見る。字うまいし、きっちりやってある……。意外だ。
「プリント、進んでないけど?」
「え!あ、うん……」
オレが終わるの待ってんの?なんで?
「さ、先帰っていいよ?」
「んー、一緒に帰ろ?」
「え、なんで?」
やべ、素で返事してしまった。あ、笑った。
「ふっ、ははっ……めっちゃ失礼だな。んー、何となく。縁ってやつ?」
「はぁ。なるほど?」
「だからはい、プリントはやくやって。」
無事解き終え、いや写し終えたプリントを提出して帰る。隣にはニイミが居る。はー、こんな日が来るとは。そんなことを思うくらい接点がなかった。
「――ニイミは、進路は?」
「ん?俺進学。経済系の大学行くよ。」
「え、まじか。お前頭良かったのな。」
「ほんと失礼だよね。別に良くはないよ、Fランだし。」
また笑いながら言う。ホントに意外だ。
「ヤマシタは?」
「オレはね就職。自動車部品作る工場。」
「へぇ。大変そ。」
興味なさそうに相槌を打たれる。
「うわ、全然興味ないじゃん!ま、でもオレ車好きだし、関連すると言えばするし。いいんだよ。」
「なるほどね。んじゃ卒業しちゃったらやっぱヤマシタとは中々会えなそうだな。」
苦笑いした後、なんだか切なそうに言うので、不思議に思う。
「?そもそも、オレお前と初絡みくらいだと思うんだけど?」
「え。あー、ま、確かに……そうかもな。」
「だよな。3年間同じクラスだったのにな。」
「……ね。」
不意に会話が途切れ、ニイミが立ち止まる。え、なに?気まず!
「そういえば――」
「ヤマシタ、俺お前が好きなんだよ。」
話し出しが被った。って、は?今なんて?
「え?」
「俺、ヤマシタが好きなんだ。」
「は?え?は?」
脳内が?で満たされる。さっき言っていたが、オレはニイミとは同じクラスの人、という認識しかない。まともに会話したこともないくらいだ。
「え?好き?あれ?ニイミって彼女いるんじゃ?え?」
「彼女はいたことあるけど、今はいないし……一応言っとくけど、俺童貞だからな?」
「えぇ!!?」
「告白より驚くじゃん……」
「え、だってニイミってヤリチンだって……ぁ、すまん。」
「あー……うん、それな、デマ、というか、その、うーん……」
ニイミはうーん、とうなっている。そんな言いにくいことなら言わなくてもいいのに、なんて考えていたら、爆弾発言が飛び出した。
「ヤマシタでしかヌけなくなってさ。んで、嘘だって思って躍起になって試したんだけど、どの女の子でもタたなくてさ、ま、逆恨みというか、そういうやつ。だから最近俺、女の子から死ぬほど嫌われてんだよねー」
「オレでしかヌけない」というパワーワードに思考が止まる。ん?ヌく?何を?栓抜き?今のはオレの精神安定上理解してはいけないことだと、無意識に明後日の方向へ思考を飛ばす。
「ね、ヤマシタって、オナニーとかする?」
「情緒!!」
は!ついツッコミをしてしまった。
「え?情緒?え?何、もしかして俺のこと意識した?それとも、さっき告白したばっかなのに何突然『オナニー』の話してんだってこと?」
「わからん!」
「そっか〜、で、オナニーとかする?」
「頼むから外でそんな『オナ…ー』とか連呼すんな!」
「えー、別に誰も聞いてないし良いって。んで、どうなの?」
「……それを知ってどうすんだよ。」
「うん?そうだな、ズリネタにする?」
「……。」
「わぁ、言葉もないって感じだ。」
楽しそうな声。こちとらもう何を言っていいのかすらわからないというのに。
「ま、でもさ、真剣な話、俺が突然こんなこと言ってもキモいとかじゃなくて、純粋に困惑してツッコミ入れてくれるヤマシタがやっぱ好きだ。」
――っ!
しみじみとつぶやかれた言葉に今度こそ顔が赤くなる。暗くてよかった。本当にさっきのさっきまで、ニイミのことはただの同じクラスの人、ウェーイ系のオレとは絶対合わないやつだって思ってた。けど、意外と静かでウザ絡みもなかった。勉強もしてるし、結構真面目な、いい奴だ。いや、ちょっと待て!突然俺に「好き」とか言ってくる変人だぞ?いや、そもそも好きって何だよ。付き合ってって、ことか?
「な、なぁ……ニイミ。お前、オレのこと、す、す好きなんだよな?」
「そうだね。」
「それは、その、付き合いたいとか、そういうことか?」
「うーん……」
ニイミは少し考える素振りをして、思いがけないことを言った。
「そういうわけじゃない、かな。」
「へ?」
「うーん、なんだろうね。あ、別に付き合いたくなくってわけじゃないし、何ならヤりたいけど、さっきの告白は、こう、何というか漏らしちゃった、みたいな?」
「もらし……」
「さっきさ『3年間同じクラスだったのに初めて絡んだ』って言われて、意識してんのは俺だけかーって思ったらなんかぽろっと。」
なんだよ、なんなんだよ!なんかもう!そうしんみり言われるとなんか申し訳なくなるだろ!多分無意識にうなっていたのかもしれない。ニイミはふっと笑うと、続けた。
「だから心配しなくて大丈夫。ヤマシタは別に俺の気持ちがどうとか思わなくていいから。とりあえず知っといて。ぁ、でももしヤらせてくれるなら願ってもないけど。」
「それはねぇ!付き合うよりハードル高いわ!」
「ふふっ、だよねー。」
ニイミは何でもなかったみたいな顔で歩き出した。オレもそれに続く。
「そう言えばヤマシタは期末だいじょぶそう?」
「いや、数学とか英語がやばい。」
「プリント丸写ししてたもんね。」
「だってわかんねぇんだよ、微分積分って人生で使うか?」
「使う人は使うんじゃない?」
「じゃあ使う人だけ勉強すればいいよなー」
「そうかもね」
どうでもいい会話をしながら、駅へ向かう。ニイミも電車通学だったって今日初めて知った。さっきまでの何とも言えない空気はどこか行って、クラスメイトって感じの距離感。
「俺が勉強教えてあげようか?」
「まじ?お前教えられるほどの成績なん?」
「クラス2番だが?」
「え!いいんちょの次!?まじ!すげぇ!助けてニイミ!」
「ほほう、よかろう、もっと敬え。」
「ニイミさまー」
ニイミ、結構いい奴なんだな。誤解してて悪かったよ。冗談を言い合いながら、駅へ着いた。ニイミは別の電車に乗るらしい。じゃあな、と別れて電車に乗り込む。ほんと、人は見かけによらないよな。とニイミのことを考えていると『ヤマシタ、俺お前が好きなんだよ。』『俺、ヤマシタが好きなんだ。』ニイミの真剣な顔を思い出す。気にしなくていいって言ってたけど……気になるよな。オレなんかアイツと接点あったっけ?それに、『ヤマシタでしかヌけなくなってさ。』って。つまりは、アイツはオレで妄想して……いや、考えるのはやめよう。まぁ、でも気にしないようにしないとな。オレは考えるのをやめてスマホに映るゲームの画面に集中した。
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