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クラスのあの子と
「クラスのイケメンに」と会話は共通です。こちらは攻め視点。気が向いたら続きます。
ーーーーー
高校三年の11月、進学校じゃないこの学校の生徒はほとんどが進路も決まってだらだらした空気が流れている。行事もないし、卒業まで特にすることのない、束の間の自由な時間だが、就職する奴らは「内定取消」という言葉をチラつかされるせいでハメを外すのをためらうらしい。
俺は同じクラスに好きな子がいる。ヤマシタミズキ。女の子みたいな名前の男。俺がミズキに出会ったのは高校入学以前、高校の体験入学の時だ。家から近いという理由で、とりあえず見学にきたが、つまらなそうな学校だなと思った。ここに来るくらいなら多少遠くても別の学校にするか〜と考えながら、校舎見学をしていると、目の前で明らかに迷いましたみたいな顔をした奴がいた。それがミズキだった。
ミズキは、やはり迷って帰れなくなっていたらしい。泣きそうな顔で俺を見上げてきたその顔に一目惚れした。何というかど真ん中ストライクな顔だった。造形自体は普通だと思う。なんというか可愛い系。小動物みたいな。いっしょに初めの集合場所まで戻ってその日は終わり。家に帰って、ミズキのことを思い出した。助けてくれるんですか…!? みたいな顔で俺を見た姿、「オレ、ヤマシタミズキです。女っぽい名前なんですけど。あの……」そう言って恥じらいながら俺を見上げる姿、そしてふと気づく、あいつ、男だったな。
途端に俺は焦った。いままで普通に女の子が好きだったはず。おっぱい、うん。いいよね、おっぱ……ふわふわと妄想が膨らむ。
「ごめん……オレ、おっぱいなくて、つまんないよね……」そう言いながら胸を隠すミズキ――
やべぇ…勃った……。いやいや待て待て!動揺というか動悸が止まらない。それからの俺はもう、なんというかめちゃくちゃだった。ミズキのことが忘れられなくて、結局この高校に願書を出していたし、気付けば入学していた。それと同時に、男に惚れてしまったという事実を認めたくなくて、女の子に手を出しまくった。しかし、いざヤるとなるとミズキの顔が頭にちらついて、目の前の女の子では勃たなかった。にも関わらず、ミズキのことを考えてスるソロプレイは余裕でイけた。ただし、ゲイビや他の男では無理だったので、俺はホモではない。オレは、ホモでは、ない!
――と開き直るまでに、3年近い時間がかかった。その間俺は同じクラスでありながら、ミズキと全く絡めなかった。ミズキはあの体験入学の日のことを忘れているようだったし、どことなく俺を怖がっているようだった。どうやって距離を詰めよう。女の子たちは勝手に寄ってきてくれたからな。ま、今は一連の確認作業のせいで蛇蝎の如く嫌われているが……とか考えていたある日、俺は絶好のチャンスに恵まれた。ありがとう神様! 仏様!! 普段は信じてないけど!とりあえず天を仰いでから、俺は、机で居眠りするミズキいや、ヤマシタに話しかけた。初手名前呼びはキモいかもしれないからな!
「おーい、ヤマシタ。お前、実は友だちいないん?」
「……ん、え?」
ミズキはバッ! と顔を起こすと、俺を見て驚いた、というよりはビビった顔をした。やっぱりオレ怖がられてる? しかし、キョロキョロと教室を見渡して、花がほころぶような笑顔でお礼を言った。あー、やばい。かわいい。
「え、あ、ありがと!ニイミ!うわ、やっべ、プリント終わってない!」
「写す?」
「え、まじ?いいの!?」
「ん、はい。」
ミズキは居残りの途中で寝ていた。課題は提出済みだったが、ミズキが解いていたプリントの残部を入手してさも自分も居残りだったかのように見せかけて、解いておいた。嬉しそうにプリントを、受け取ったミズキは、いそいそとプリントを写し始めた。字が下手だな。ミズキのことをじっと眺めていると、手が止まった。
「プリント、進んでないけど?」
「え!あ、うん……」
少し口ごもると、ミズキは意を決したように言う。
「さ、先帰っていいよ?」
「んー、一緒に帰ろ?」
「え、なんで?」
本当にキョトンとした顔で言うからおかしくなって笑ってしまった。本当に素直だな。でも、俺だってここで諦めたら試合終了だから。
「ふっ、ははっ……めっちゃ失礼だな。んー、何となく。縁ってやつ?」
「はぁ。なるほど?」
「だからはい、プリントやって。」
なんとかプリントを写し終えたミズキと連れ立って帰る。外はすっかり暗くなっている。俺の足は自然と、家とは逆の駅方向に向かう。ミズキは電車通学だから、駅まで送っていこう。
「――ニイミは、進路は?」
「ん?俺進学。経済系の大学行くよ。」
「え、まじか。お前頭良かったのな。」
「ほんと失礼だよね。別に良くはないよ、Fランだし。」
ミズキの方から話を振ってくれたことに内心驚く。もしかして俺に興味持ってくれた?俺も知っているけど同じことを返す。
「ヤマシタは?」
「オレはね就職。自動車部品作る工場。」
「へぇ。大変そ。」
知ってたよ。その会社の所在地も、勤務地も調べた。ミズキが就職して、俺が進学したら、偶然会うのは難しいだろう。せっかくの機会に俺のことを印象づけておきたい。
「うわ、全然興味ないじゃん!ま、でもオレ車好きだし、関連すると言えばするし。いいんだよ。」
「なるほどね。んじゃやっぱヤマシタとは中々会えなそうだな。」
切なそうに言ってみる。ミズキは単純だから、きっとなんで?って思うはず。
「?そもそも、オレお前と初絡みくらいだと思うんだけど?」
「え。あー、ま、確かに……そうかもな。」
「だよな。3年間同じクラスだったのにな。」
「……ね。」
ほら、ってマジで全く意識されてなかったのか……、それはそれで悲しい。が、しかし!過去よりも今!そして、未来の方が大事だ!俺はわざと黙って立ち止まる。ミズキもそれに気づいて立ち止まる。きまずいぞ? どうしたんだ? って顔のミズキに向かって口を開く。
「そういえば――」
「ヤマシタ、俺お前が好きなんだよ。」
しまった被ったな。繰り返しとくか。
「え?」
「俺、ヤマシタが好きなんだ。」
「は?え?は?」
うわ、動揺した顔もかわいい。
「え?好き?あれ?ニイミって彼女いるんじゃ?え?」
まぁ、そうだよな。同じクラスなんだし、俺の噂くらいは聞いたことあるだろうな。ここは――正直に言っておくか。
「彼女はいたことあるけど、今はいないし……一応言っとくけど、俺童貞だからな?」
「えぇ!!?」
「告白より驚くじゃん……」
むしろお前のせいだからな。
「え、だってニイミってヤリチンだって……ぁ、すまん。」
やっべ、ミズキの口から「ヤリチン」なんて言葉が出るとか……悪くないな。というか、自分で言っておいて照れるのかわいいが過ぎるから!
「あー……うん、それな、デマ、というか、その、うーん……」
思考があらぬ方向へ向かいそうになったのを誤魔化すべく、言い出しにくい様子を装う。でもまぁ、ぶっちゃけ時期的になりふり構ってらんないからなー。
「ヤマシタでしかヌけなくなってさ。んで、嘘だって思って躍起になって試したんだけど、どの女の子でもタたなくてさ、ま、逆恨みというか、そういうやつ。だから最近俺、女の子から死ぬほど嫌われてんだよねー」
鳩が豆鉄砲を食ったようとはこういう顔だろうか。思考停止している。かわいい。お? 目が泳ぎ始めた。話を逸らそうとしているのかな。そうは問屋が卸しませーん。
「ね、ヤマシタって、オナニーとかする?」
「情緒!!」
え?
「え?情緒?え?何、もしかして俺のこと意識した?それとも、さっき告白したばっかなのに何突然『オナニー』の話してんだってこと?」
「わからん!」
顔真っ赤にしちゃって、初心だなぁ。あーもう、そんな顔したらもっといじめたくなっちゃうじゃん。
「そっか〜、で、オナニーとかする?」
「頼むから外でそんな『オナ…ー』とか連呼すんな!」
「えー、別に誰も聞いてないし良いって。んで、どうなの?」
「……それを知ってどうすんだよ。」
「うん?そうだな、ズリネタにする?」
「……。」
「わぁ、言葉もないって感じだ。」
ほんとに、耳まで真っ赤だし、目とか潤んじゃってるし、その顔だけでご飯三杯はイけるわ。写真撮りてぇ! はっ、違う! 今日はミズキに意識されるのが目的だろ! 俺! こんな日のために読んだ少女漫画を思い出せ!!
「ま、でもさ、真剣な話、俺が突然こんなこと言ってもキモいとかじゃなくて、純粋に困惑してツッコミ入れてくれるヤマシタがやっぱ好きだ。」
ようやくこっちを向いてくれたか。表情からすると効果的だったようだな。ん?
「な、なぁ……ニイミ。お前、オレのこと、す、す好きなんだよな?」
「そうだね。」
「それは、その、付き合いたいとか、そういうことか?」
「うーん……」
あー、かわいい♡ キスして、ぐちゃぐちゃに……はっ! いや待て、さっき認知したばかりのしかも同性の俺から付き合いたいなんて言われたら、ヒくよな!? ここはまだ我慢だ! もう少し切なげな感じで攻めるのがいいはず!
「そういうわけじゃない、かな。」
「へ?」
「うーん、なんだろうね。あ、別に付き合いたくなくってわけじゃないし、何ならヤりたいけど、さっきの告白は、こう、何というか漏らしちゃった、みたいな?」
「もらし……」
「さっきさ『3年間同じクラスだったのに初めて絡んだ』って言われて、意識してんのは俺だけかーって思ったらなんかぽろっと。」
うんうん、ミズキは優しいもんな。こんな風に言われたら、いくら同性とはいえ気に病むよな。あー、ほんとかわいい。
「だから心配しなくて大丈夫。ヤマシタは別に俺の気持ちがどうとか思わなくていいから。とりあえず知っといて。ぁ、でももしヤらせてくれるなら願ってもないけど。」
「それはねぇ!付き合うよりハードル高いわ!」
「ふふっ、だよねー。」
ちっ! まずは身体から〜なんていう方向性は流石に無理か。さっき童貞って言っちゃったからな。しまった……。いや、まぁ警戒は解けたようだし、いじめるのはこれくらいにして、こっからだな。
「そう言えばヤマシタは期末だいじょぶそう?」
「いや、数学とか英語がやばい。」
「プリント丸写ししてたもんね。」
ま、知ってたけどね。しかも数学と英語と言いながら、実際には他も大して良くないはず。
「だってわかんねぇんだよ、微分積分って人生で使うか?」
「使う人は使うんじゃない?」
「じゃあ使う人だけ勉強すればいいよなー」
「そうかもね」
よし、この流れで――
「俺が勉強教えてあげようか?」
「まじ?お前教えられるほどの成績なん?」
「クラス2番だが?」
勉強ちゃんとしといてよかった! オレを頭よく産んでくれた母さん、ありがとう!!
「え!いいんちょの次!?まじ!すげぇ!助けてニイミ!」
「ほほう、よかろう、もっと敬え。」
「ニイミさまー」
さて、これで下準備は整ったな。あとはミズキの家――は専業主婦の母上がいらっしゃるだろうし、部屋は狭いって言ってたからな……勉強会は俺の家だな。部屋まで来てくれたらあとはもう――。
はー、テンション上がってきた。タちそう。ホームに立つミズキを眺めながら、近々行われるだろう勉強会をシュミレーションする。ミズキはホームに立ってしばらく百面相していたが、今はスマホの画面を見ている。 最近始めたゲームだろうか。ミラーリングしたスマホはぴこぴこと軽快な音楽を鳴らしてキャラクターが動いている。認知されたし、俺ってわかるキャラ作ってフレンド申請するか。電車がホームに入ってくる。ミズキの乗る電車だ。あぁ、今日もお別れか……。ミズキの乗った電車が走り去るのを眺めて、俺も帰路に着いた。
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