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告白シーンでは過剰演出は惜しまない。それは少女漫画家の鉄則だ。
キラキラのトーンで飾り立てて、キャラも三割増しでカッコよく描いた。
でも丹羽さんは、そんな俺の努力の詰まった作画さえ、軽々と飛び越えていく。
ああ、俺が描きたかったのは、この目だ。これが正解だったと思わされる。単行本に載る時に修正を加えたいくらいだ。でもどんなに優れた漫画家でも、今のこのときめきは絶対に表現できない。だって、感情が滝のように俺を押し流していく。
丹羽さんが、俺に恋をしている。これ以上の奇跡が、世界に存在するだろうか。できることなら、彼が心変わりする前に、このまま二人で二次元に飛び込んでしまいたい。
丹羽さんが、恐る恐る原稿に目を落とす。
「当たりだ。……少しは夏生くんの期待に応えられたかな」
少しカッコつけた丹羽さんは、また仕事用の顔をしている。
「……丹羽さん、ちょっと無理してません?」
すかした仮面の向こう側を見るように視線を投げかけると、俺の手が冷たい指によって、おずおずと熱い胸板に導かれる。
「してるよ。ほら、こんなにドキドキしてる。今にも口から心臓が出てきそうだよ」
その語尾は確かに弱く、少し震えていた。これが本番だったら、きっとリテイクになるだろう。でも俺には、この答えだけが正解だ。
そして今、丹羽さんは、俺が本音を語るのを、静かに震えながら待っている。
これは現実で、ハッピーエンドだけじゃ終わらない。だからこそ、もう俺も妄想の世界から出て、その思いに応えなきゃいけない。
「……俺、スパダリの丹羽さんを好きになったんだと思ってました」
俺は昔付き合った人に立て続けに裏切られてから、リアルの人間が信じられなくなって、理想のキャラクターを生み出すことで、ずっとその傷を埋めてきた。
「初めて会った時、こんな理想の人いるんだって驚いて目が離せなくなって……でも、あの日、丹羽さんにも不完全で人間らしいところがあるって知った時、俺、がっかりするんじゃなくて、ほっとしたんです」
丸く見開かれた丹羽さんの瞳は、とろんとした蜂蜜みたいで、ひたすらに甘そうだ。
「遠くて仕方なかった丹羽さんを、初めて身近に感じられて嬉しくて。素の丹羽さんを、もっと知りたいと思ったんです……」
「じゃあ何で、連絡返さなくなったの?」
「それはほんと、すみません。……俺、ゲイだし。丹羽さんは違うって分かってたから、巻き込んで不幸にするんじゃないかって」
「そんなわけない。俺は初めて会った時から、夏生くんが男だとか関係なく、気になった。それに初めて触った日だって、しっかり男の体だと思ったけど、すごく気持ちよかったし」
ああ、もう恥ずかしくてそれ以上聞いていられない。でも、ここまで言ってくれるなら、きっと信じられる。信じてみたい。
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