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序
宇津井重蔵は、政府軍として、薩摩軍を討伐するために、今、田原坂にいる。
気づけば、叫び声、どよめきは、遠ざかっていた。
主戦場は、ここから離れたようだ。
熾烈を極めた戦いも、ようやく峠を越したと思われる。
重蔵は、肩で大きく息をしながら、持った刀を見つめた。
何人斬ったのか、わからない。
付着した血が、降りそぼる雨により洗い流され、切っ先から滴り落ちる。
既に全身はずぶ濡れだ。
重蔵は、静かに息を吐いた。
肩の力が緩む。
ゆっくりと首を回した。
前方を直視しながら、かつ、周囲に気を配りながら、刀を袖で拭う。一瞬たりとも気は抜けない。ここは戦場なのだ。
薩摩軍は射撃で弾薬が尽きると、迫撃攻撃をしかけてきた。大刀を振りかざして突っ込んで来たのだ。
薩摩軍の剣術は、頭から突き抜けたような奇声を発しながら、刀を振り上げたまま突進して来、間合いに入るや否や、一気に斬りこんでくるというものであった。
生半可にこの斬撃を受けてしまうと、そのまま刀ごと斬られてしまうほどの威力を持っていた。
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