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しかし、物資の補給が充分でない薩摩軍は、日に日に疲弊していった。
そして政府軍は、今回、未明の総攻撃で一気に勝負をかけた。狙撃隊や砲撃の援護もあり、重蔵たち政府軍は、ようやく田原坂を抜こうとしている。
「む」
重蔵は、殺気を感じた。
正面を見据え、静かに呼吸を整える。
雨が、少し強くなった。
重蔵は、目を細めて前方を注視する。
刀を持ったまま、こちらに歩いてくる者がいた。
向こうもずぶ濡れだ。
鞘が赤い。薩摩軍だとわかる。
「味方かと思ったが、違うようじゃなあ」
挑発するような言い方だった。
重蔵は答えず、黙って相手を見つめる。
「会津のもんか」
「だったらどうした」
「情けないのう、惨めじゃのう、今じゃあ政府の犬か」
「なんとでも言え、我々がここにいるのは政府のためではない、会津の仇、薩摩を打つ。それだけよ」
どっちでもええわ、と相手は吐き捨てた。
「で、おんしの刀、それ、使えるんか。血ぃがべったりやぞ。そんな刀で、このワイを斬れるんかい」
重蔵は「ふ」と片頬を緩ませた。
「刀が切れなくなったから負けたなどとは、言い訳になるまいよ」
何をいまさらと冷笑する。
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