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 重蔵は、役目で江戸に詰めていたが、戊辰戦争後は、鬱々としていた。  が、ある日、戊辰戦争長岡城の攻防戦で、剣術隊長として戦い抜き、生き残った根岸信五郎が神道無念流の使い手であり、その道場が江戸にあると聞き及び、矢も楯もたまらず師事した。  たゆまぬ修行のおかげで、なんとか一人前と認めてもらえるほどの腕になった。 そしてこの度、明治政府に反旗を翻した西郷隆盛を筆頭とする薩摩を成敗するために参加することを得、今、田原坂の戦いに身を置いている。  薩摩軍の戦い方は、師の根岸信五郎から聞かされていた。  薩摩軍は、いきなり渾身の一撃を放ってくる。初太刀をまともに受けてはいけない、と。  重蔵は、薩摩軍に仕掛けてくる初太刀を捌いた。逃げるのではなく、捌くのである。  これで、一撃必殺の気迫で打ち込んでくる薩摩藩士の気勢を、削いだ。  渾身の一撃がかわされると、相手は動揺する。心が乱れれば隙が生まれる。  二の太刀が続けて打ち込まれるが、当然、初太刀ほどの勢いや力強さは、ない。  あとは相手に構える隙を与えずに勝負するのみである。  斬り離れた二人は、構え直す。
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