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お互い、すでに肩で呼吸をしている。
政府軍も薩摩軍も、ここに至るまでの、斬り合いによる疲労の蓄積は、並大抵のものではない。
間合いは、一歩踏み込めば相手に届くほどの距離。
双方が必殺の一撃を狙っているから、動かない。
雨が、容赦なく二人に降り注ぐ。
一瞬、風が弱くなった。
それを合図のように、天を突き抜けるような気合が発せられた。
「きえええええいっ」
島津が飛び込むようにして間合いに入ってくる。入ると同時に袈裟懸けに斬り降ろされた斬撃を、重蔵は、左に下がり、かわした。
島津はすぐに反応した。刃を返し、切り上げてきた。
重蔵の目の前を、切っ先がかすめる。
「くっ」
島津が悔しそうな声を絞り出す。
島津の右胸に、重蔵の刀が刺さっていた。島津が刀を振り下ろした一瞬、つまり技のつきた一瞬間を、重蔵は、片手で突いたのだ。だがまだ浅い。致命傷にはならない。
島津は、磁石が反発するように、重蔵の前から飛び跳ねた。
「やるのう」再び構える島津。
「当たり前だ」再び青眼に構え、切っ先を島津の喉元につける重蔵。
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