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急な話に俺は動揺した。
「そうは言っても、心の準備が……」
「ぴーぴぴぴぴぴ」
「『さあ、始めるぞ』だって。じゃあね、頑張ってね」
そう言って康子は台所へと消えた。
俺は康子にすがるようにしていた体勢を元に戻すと、部屋の中にお父さんと二人、座卓を挟んでしっかりと向かいあった。
「ぴーぴぴぴぴぴ」
あ、これはさっき聞いた、たしか『さあ、始めるぞ』だったな。お父さんはやる気満々になっているらしい。これはやるしかない。
「えっと、じゃあ、お願いします」
「ぴぴぴーぴ」
おもむろにお父さんが笛を吹いた。これを訳せということなのか。
「え、えーと、『マヨネーズ』?」
「ぴぴーっ!」
お父さんが『ちがーう!』と怒鳴っているような気がした。
「ぴぴぴーぴ!」
「あーなんだろう。『ボロネーゼ』?」
「ぴぴーっ! ぴぴぴーぴ!」
「『初詣』?」
「ぴぴぴーぴ!」
「『フラフープ』?」
「ぴぴーっ!」
やっぱり難しい。俺は完全降伏、白旗を上げた。
「もう降参です。全然わかりません」
あきらめた俺を見て、お父さんはイラ立ったように口から笛を外した。
「チッ! しょうがないやつだなーっ!」
「いや、普通にしゃべれるんかい!」
おわり
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