15人が本棚に入れています
本棚に追加
「あなた。真一さん、嘘をつかないまっすぐで気持ちいい人じゃないですか」
「ぴ~……」
「ふたりとも、顔を上げてって、お父さんが」
お母さんの言葉を聞いて俺は顔を上げた。お父さんはもと座っていた場所にゆっくりと腰を下ろした。
「あなた」
「お父さん」
お母さんと康子がお父さんに話しかけた。お父さんは黙ったままだった。俺はお父さんをまっすぐ見つめた。
「お願いします!」
お父さんは笛を口から外し、お茶をひとくち飲んでから、また笛をくわえ直した。
「……、ぴー。ぴぴぴぴぴ。ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ」
その笛言葉を聞いて康子とお母さんは喜びの声を上げた。
「やった!」
「え? なに? やったの?」
やったっぽいけど、俺はイマイチ喜びの輪に入れなかった。いい雰囲気なのに。はじめて笛言葉がわからないことを悔しいと思った。
「『こちらこそよろしくお願いします』だって!」
康子が訳してくれた。
「や、やったーーー!」
伝言ゲームの承認では心の底からは喜べなかったものの、俺はできうる限り全力で喜んだ。
お母さんが俺たちの後ろにしゃがんで、大きく抱きしめるように康子と俺の腰に手をまわした。
「よかったね、ふたりとも」
喜ぶ俺たちを見て、お父さんも小さくうなづいた。
「ぴぴぴぴぴ、ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ」
「『これからも二人仲良くやるんだぞ』だって」
最初のコメントを投稿しよう!