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「あらら、どうしたの?」
「もう、お母さん聞いてよ。真一さん、朝から緊張してるのよ」
話を聞いてお母さんは優しく微笑んだ。
「あらあら。大丈夫よ、真一さん。お父さん、見た目は怖いけど、とってもお茶目な人だから」
「は、はい。いえ、そんな。はい」
「それに」
お母さんが俺の正面に立ち、まっすぐ俺の目を見つめてきた。
「私は康子と真一さんの結婚、大賛成だから。今日の挨拶でなにかあったら助けてあげるつもりだから」
「お母さん……」
お母さんの言葉に康子は声を詰まらせた。俺は、康子が持つ芯の強い優しさはお母さんゆずりなんだなとなんだか感動した。
そしてさっき康子が背中を叩いてくれた時のような安心感をおぼえて、ふ~と息を吐いた。
「ありがとうございます。落ち着きました。大丈夫です」
俺の言葉を聞いてお母さんはニコッと微笑んだ。
「さあ、行きましょう」
「はい」
俺たちはお母さんの後ろをついて歩いた。
康子の実家は日本家屋の大きな一軒家だった。
柱や梁や廊下に使われている木材は明らかに高級なものであるとひと目でわかった。
壁の漆喰も乳白色が窓から入る陽光を上品にはね返すことが計算されているようで、名のある職人の仕事だとひと目でわかった。
かなりの年数を感じさせる建物だったが、部屋の隅や天井の梁の裏、隅から隅まで匠の技が施されていて、素朴ながら威厳を感じさせるものだった。
(金に糸目をつけず、一流の職人に頼んだに違いない)
廊下を十メートルほど進んで左に曲がり、そのまま歩くと石庭のある縁側に出た。縁側はまっすぐに伸びていて、左側が石庭に面し、右側には障子が並んでいた。
(こんなのお寺さんだよ)
その右側に並んだ障子の方を向いて、康子のお母さんが立ち止まった。
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