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「お父さん、康子たちが来ましたよ」
「ただいま、お父さん」
康子と康子のお母さんの呼びかけに返事はなかった。しかし、お母さんは躊躇なく障子を開き、部屋の中へと入っていった。
俺はお母さんの後に続き、部屋に一歩足を踏み入れると同時に頭を深く下げた。
「は、はじめまして! わ、わたしくし、康子さんとお付き合いをさせていただいております田中真一と申しま……す……」
「ぴぴぴーぴ。ぴーぴーぴ」
「……」
「ぴぴぴーぴ。ぴーぴーぴ」
俺は絶句した。康子のお父さんの第一印象は『岩』だった。顔はコワモテ、体は服の上からでもわかるぐらい筋肉の塊で、圧倒的な威圧感があった。イカツい。でも、なんだ。いったいなんなんだ。
「もう、なにボーっとしてるのよ、真一さん」
康子がお父さんと向かい合うように座卓のそばに置かれた座布団に座りながら、俺の手を引いた。
「……、は! はい!」
俺はお父さんの顔を、特に口元をマジマジと見つめながら、置かれていた座布団に腰を下ろした。
「ぴーぴー、ぴぴぴぴぴ?」
「ふふふ、お父さん『よく来たね』なんて顔に似合わない優しい言葉を懸けるから、真一さんビックリしてるじゃありませんか」
お母さんは、湯呑に急須でお茶を注ぎながら笑った。
「ぴぴぴぴ!」
「はいはい、私は向こうでお料理の用意をしてますね。うふふふ」
三人分のお茶をいれ終わったお母さんは、すっと立ち上がって俺たちが入ってきた障子の方とは反対側にあるふすまを開けて部屋から出て行った。
部屋を出て行く前に俺と康子に唇の動きだけで「ガンバッテ」と言ってくれたような気がしたが、俺はもうそんなどころではなかった。
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