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「ぴぴぴ、ぴぴーぴぴ、ぴっぴぴぴぴ?」
お父さんが不満げな声を上げた。いや、吹いたと言うべきか。
それに対し、康子は少し不貞腐れたように答えた。
「いや、真一さんが、お父さんのことおかしいって……」
「なーーーっ!」
「お父さんが変態だって……」
「なーーーっ!」
俺は慌てて康子の口をふさごうとして、目の前にあった大福もちを康子の口に放り込んだ。
「もぐもぐもぐもぐ!」
康子はものすごい勢いで大福もちを咀嚼した。
俺は康子にお茶を渡すふりをして寄り添い、ささやき声で康子に噛みついた。
「ちょっと、やめてよ! 俺がお父さんの悪口を言ってるみたいに言うの!」
大福もちをすっかり飲み込んだ康子がスネて唇を尖らせた。
「だって悪口言ってんじゃん」
「悪口じゃないよ、悪口じゃ」
まだ康子は唇を尖らせていた。俺は正直に打ち明けた。
「ごめん。俺、お父さんの言葉、いや、話し方? いや、笛の言葉? なにしろ言ってることがわからないんだ」
俺の告白に康子は驚きながら悲しそうな顔をした。
「ひ、ひどい!」
「ひどいってなにが? 普通、笛をくわえた人とコミュニケーション取ることってある?」
「ぴぴぴ」
エキサイトしかかっていた俺と康子だったが、お父さんの笛に正気を取り戻した。
「お父さんの今の、なに?」
「咳払い」
咳払いすらも笛か、とその徹底ぶりに思いを馳せたのも束の間、康子が俺の耳に顔を近づけてささやいた。
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