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「どうするの、今日」
お父さんの言ってることがわからない俺に対しての『どうするの』だと理解した。
「笛言葉はおいおい勉強していくとして、とりあえず今日をなんとか乗り切らないと」
「わかった。じゃあ、私がうまく通訳していくわ」
「よろ」
「ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ」
お父さんが俺たちをいぶかし気な顔で見ていた。ちょっとコソコソ話が過ぎたか。
「ううん。なんにもないの」
康子がそう返事して座り直した。多分『なにをしているんだ』とか聞かれたんだろう。
「さあ、真一さん。お父さんとお話してくださいな」
「はい、そうですね」
さあ、今から勝負だ。気合を入れ直そうと俺も康子にならって背筋を伸ばして座り直した。
「ぴぴぴぴぴぴぴ、ぴぴぴぴぴぴぴ、ぴぴーぴぴぴぴぴっぴ?」
お父さんが俺になにかを尋ねるように笛を吹いた。俺は当然なにを聞かれているのかわからなかった。
「は、はい。あのー、そのー」
言い淀む俺に康子が明るく割って入ってきた。
「ほ、ほら! 真一さん! お父さんにあの時の話をしてあげてよ。学生時代、野球をやっていた時の話を」
「あ、あー、はいはい、なるほど。野球をやってました。高校時代はピッチャーで4番を打ってました」
うまく答えられた。俺と康子は嬉しくて見つめ合った。そんな俺たちをお父さんは不思議そうに見ていた。
イカン。気を抜いて俺がお父さんの笛言葉が理解できないことを見抜かれてはイカン。すぐさま俺はお父さんの方へ向き直った。
「ぴぴーぴぴーぴ。ぴぴぴぴ、ぴぴぴっぴぴぴぴ?」
またもお父さんからの質問が飛んできた。
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