地震、カミナリ、笛オヤジ

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 お母さんは座っている康子の後ろに立つと、強引に康子の腕を引っ張った。 「邪魔するならこっち来てお料理手伝ってちょうだい」 「あ、ちょっとそれは……」  親想いな康子がお母さんに反抗している。俺は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。 「ぴーぴぴぴぴ。ぴぴぴ、ぴっぴぴぴぴ」 「ほら、お父さんもそう言ってるじゃない。さあ、こっち来て」  お父さんとお母さん、両方にお願いされたら親孝行で有名な康子は従わざるを得ない。康子はしぶしぶ立ち上がった。 「うー、ごめん、真一さん! あとはひとりでなんとかがんばって!」 「えー! ちょっとちょっと!」  後ろ髪惹かれるように俺に向けて伸ばした康子の手を、俺は掴もうとした。 「ほら康子、早く来なさい!」  お母さんの催促に康子の手に触れることは叶わなかった。康子は台所に引っ張られていった。 「がんばってー!」 「康子ーっ!」  ペタペタペタと二つのスリッパの足音が台所へと消えていった。 「ぴぴぴーぴ。ぴぴぴー」 「えっと、あっと、その」 「ぴぴぴーぴぴぴぴ。ぴぴぴぴぴーぴ」 「あー、えーと、そのー」  康子がいなくなった今、お父さんの笛言葉は皆目見当のつかないものになった。これならモールス信号を打たれた方がまだわかりそうなものだ。  俺は返事をすることもままならなくなり、部屋の中がしばらく静かになった。  何か喋らないと、でもなにを? と俺が悩んでいると、お父さんが重い口を開いた、ような感じで話し始めた。
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