桜野環奈と ひまわりの咲く丘

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               -1-  僕は掲示板を見て愕然とした。朝一で学力試験の結果が廊下に張り出され、1学年、260人分の全ての名前が5科目の合計点の高い順に掲示された。今まで1番しか取ったことのない僕がなんと最下位。僕は非常なショックを受けたまま、1年G組のクラスに入った。教室にいるみんなは朝から分厚い参考書をにらみながら勉強をしている。僕の通っていた中学時代とは全然違う光景だった。ホームルーム前から勉強している奴なんて僕ぐらいだった。  がっしりした体格で髪を五分刈りにした担任の中川先生が教室に入ってきて、ホームルームが始まった。中川先生は、男女半々の40人の生徒を一通り見渡した。日直の生徒が号令をかけて、みんな起立し、あいさつをした。 「おはようございます」 「おはよう」  僕たちが着席して、中川先生が話し始めた。 「みんな、掲示板見たよね? 入学早々の学力試験の結果。500点満点中、このクラスの平均点は438点。みんな難しかった? 中学の基礎的内容のテストだよ。480点以上は当然だよね」  僕は401点。中川先生の言うような決して簡単なテストではなく、ほとんどが応用問題。自分ではまずまずの出来だと思っていた。身の程知らずで、この有名A私立高校を受験して合格した。でも僕には場違いな高校かもしれないといきなり思い知った。きっと入学試験も最下位で受かったのだろう。 「A組の平均点は499点。みんなもT大やK大にはいりたいんでしょ」  A組の平均499点って、それは最高点じゃないのっていうレベル。僕は本当に恐ろしい高校に来てしまった。  1時間目の授業から、僕はやる気をなくした。この高校は普通は3年かけてやる授業を1年半で終えてしまう。それ以降はもっぱら大学受験対策の授業となる。進度の早い授業なのに僕はぼうっとしてしまっていた。昼休みになっても食欲が出ず、僕は弁当をほとんど残した。  午後からの授業は、気を取り直して取り掛かった。やるしかない。少なくとも学年ビリからは脱出しなければ。密度の高いハイペースな内容の授業に僕は必死に食らいついていくしかなかった。  すべての授業が終わり、僕は帰路に着いた。歩いて30分の道のり。ただ歩いていることがもったいなく感じるほど、僕はもっと勉強をしなければと思った。そんなことを考えたのは初めてのことだ。僕は途中で古書店のブックオフに寄り、大学入試対策の参考書のコーナーを物色した。苦手な数学の参考書を手に取って、難関大学入試問題を眺めていた。 「恭平君」  僕の後ろから声がした。僕は振り向いた。 「はい?」  同じクラスの子だった。まだ僕は女子の顔と名前がほとんど一致していなかった。彼女はとても綺麗で、少しウェーブのかかった栗色のボブヘアーの髪が小さな顔によく似合っている。 「君も参考書を探しに来たのね?」 「学力テストが最下位だった。最悪だよ。不安でしょうがない。それで参考書や問題集を買っていこうと思った。中古ならたくさん買っていけるし」  彼女が笑った。 「ごめん。僕はまだ君の名前を憶えていなかったんだ」 「自己紹介の時、私の印象、薄かった?」 「いや・・・」 「掲示板で君の隣に名前が書かれていたよ」 「桜野環奈さん!」  僕は思い出した。彼女は259位。確か412点だった。 「うちら、えらい学校に来ちゃったね」 「僕は中学では常に1番だったんだ」 「じゃあ私と同じだね」  そう言って彼女は笑った。
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