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第十三話 デートのお誘い
身内に匠海のゲイ疑惑が公表された日。
荒木兄妹が家に帰ると、よく見知ったスニーカーが玄関に揃えて置いてあった。
「・・・・・・お邪魔してます」
「遥さん、アポなしでどうしたの??」
「いやぁ~・・・・・・」
リビングには気まずそうな、遥。
荒木親は離れにある、兄妹の祖父母の部屋にいるそうだ。
鉄郎と朱香の足元に、毛並みのいい愛猫のペルシャが、にゃあん。と甘えた。
話すと長くなるとも云えぬ。
まあ、簡単に話せば、ピアノを、音楽を、続けたいと両親に訴えかけたら、難なくオーケーされ、なんだ、反抗期ってこんな簡単だったんだ。と、気が緩み、つい口走った。
「んで、『好きな人がいる。しかも男だ』って?」
「え?? 誰々?? あ!! もしかして・・・・・・むぐっ」
双子や元貴については朱香は知らないと遥は思っている。
そこで、匠海の名前を出されるのは危険だと、兄は妹の口をその大きな手で塞いだ。
「いや、うん。言っちゃったんだよね・・・・・・。でも、うちの両親、く、腐ってて・・・・・・。そういうのが二人とも好きで・・・・・・」
「で、ノリノリになっちゃったとか??」
「まあ・・・・・・」
堅物だと思っていた両親の意外な趣味。
男同士の恋を描いたボーイズラブ作品が好きな、腐女子と腐男子だったのだ。
なんとまあ、両親の出逢いが高校の漫研部らしい。
しかも、現実世界のそういう恋愛も何でも来いというではないか。
それで、正直に好きな人が同性で~、と息子が暴露したところ、狂喜乱舞の大喜び。
その子の名前はなんていうの??
家はどのあたり??
家族構成は??
なんて、ギラギラした目で詰め寄られて、堪えかねて荒木家へ逃げ込んだのだ。
「ぶわはははは!!」
「やだ、ママさんパパさんのイメージが・・・・・・ぶふっ」
「笑わないでよ・・・・・・。ついでに、『プレゼントも効果的よ!! あ、バイトする??』って言われて、バイト探ししなきゃいけなくなった」
荒木兄妹、大爆笑。
ここに来たのも間違いだが、そもそも両親に想い人の話をしてしまった事が間違ってた。
「はぁ・・・・・・、匠海くんに会いたい」
「あ、やっぱり、匠海さんなんだ」
「なんで朱香ちゃんが知ってるの?? え、てつ、言ったの??」
「口が滑った~」
「最低。いや、今、彼の名前出した俺が悪い」
上手くいかない。
いや、彼と想いあえないこと以外は順調だ。
まあ、実際、想いあっているわけだが。
「しゃーねーなぁー」
鉄郎が何かiPhoneを弄りだす。
「待って!! 匠海くんに何か言う気?」
「え、遥と一緒にバイト探ししたってって♡」
「は?! 無理無理無理無理!! 待って、やめて!!」
「はい、送った~」
「え?!」
長い胴体と長い四肢を駆使して遥の攻撃を躱し、匠海へ個人チャットにラインを送る。
「今日ほどお前を殺したいと思ったことはない」
「怖いわ」
何年も一緒にいて、しょっちゅう腹が立つけれど、今日ほど憎らしかったことはない。
ため息しか出ない遥と、ワクワクして仕方ない荒木兄妹。
しばらくすると、匠海から、「てつさんは?」と返ってくる。
「なあ、なんで俺らがニコイチみたいに思われてんの?」
「・・・・・・知らないよ」
はぁ、と、悩ましいため息を一つ吐いて、遥は、自分のスマホを操作する。
匠海にラインした。
『てつがいきなりごめん。ちょっとてつが都合悪いみたいで。一人だと不安だから、一緒に来てくれないかな?』
手が震えた。
汗で上手く操作出来ない。
嫌われたら、どうしよう。
・・・・・・刹那。
ピロリン。
『わかりました。バイトってことは、音楽は? 続けられるんですか??』
よかった。嫌われていない。
それどころか、心配までしてくれる。
好きだなぁ。とにやけていたら、荒木兄妹がニヤニヤ。
遥は、ぶすっとした顔を作って、匠海に、万事解決した。したけど、じゃあ、バイトをしろと言われた。と事実を少し着色して伝えた。
『解決してよかった。これで堂々と音楽できますね』
匠海が優しくて、天使か何かかと思った。
そして、堂々と音楽をできる嬉しさに少し涙が出た。
少し荒木家で匠海とやり取りをしたら、なんだか上手くいけるような気がして。
でも、浮かれていられないと、気を引き締めた、遥だった。
―つづく―
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