第十四話 空手部辞めます。そして軽音部入ります!

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第十四話 空手部辞めます。そして軽音部入ります!

 翌日。ゴールデンウィーク初日。  遥は内心ドキドキしながら学校の体育教官室前にいた。  電話では昨日顧問に話したのだが、話は分かったが、仲間たちにも話さなきゃだろう、と言われてしまい。  分かったとは言われたが、中々どうして全国レベルの副部長がいきなり退部、そして軽音部へ転部というのは受け入れがたいらしい。  兼部も考えたが、学校的に兼部は認めていないとか。  それに、お前は生徒会もやっているから大変だろう、と言われてしまった。  コンコン。  意を決して体育教官室のドアをノックする。  すると、中から野太い男の声で「入れ」と聞こえてきた。  強面で有名な空手部顧問の声だ。 「玖木か」 「おはようございます、先生。この度は急にすみません」  遥が顧問に深々と頭を下げると、顧問は深くため息を吐いて、頭を上げろと低く言った。 「空手が嫌になったんじゃないなら構わん。ワシは生徒が伸び伸び好きなことをやればいいと思っていてな。お前は空手のほかにやりたいことがあるんじゃないかと感じていた」  部活中は厳しい顧問だが、生徒想いのいい先生だった。  それを遥は嬉しく思う。しかし、仲間たちはどうだろう。 「他のやつには話したか?」 「はい。男子の方の部長には。渋々了解したようでした」 「まあ、その他のやつは認めないやつもいるだろう。説得、頑張れよ」 「・・・・・・はい」  のっそりと、ガタイのいい熊のような顧問は立ち上がり、遥に、武術棟に向かおうと促した。 「え、玖木が退部?!」 「そんで、軽音に転部、って・・・・・・」  顧問と、制服で現れた遥を見て、部員たちは訝しげに集まり、遥から退部と転部の旨を説明がされると、空手部が使う武術棟では空手部員たちが困惑を隠せないでいた。  遥は、進学校にしては成果を出せていない空手部の期待の星だった。  唯一、全国に行ける可能性を持つ男だった。  そんな男が退部などと、と激震。 「急にごめんなさい。でも、俺は空手も好きだけど、音楽が好きで・・・・・・。ずっと幼馴染から一緒に音楽しようって言われてて悩んでた。でも、ある人が、俺の音楽が好きだからって背中押してくれたんです。だから・・・・・・」  ごめんなさい。  遥は、深々と頭を下げる。  部員たちはお互いの顔を見合わせ、ふぅ・・・・・・と息を吐く。  そして口々に、「玖木が決めたことなら仕方ないよな」と受け入れてくれた。 「ありがとう・・・・・・」 「しかし、そう簡単に辞められると思うなよ、玖木」 「へ?」  男子空手部部長の合図で、屈強な空手部員が遥を囲む。  同じ武術棟を使っている女子空手部員たちはそそくさと走り込みに出かけた。 「俺たちを倒せたら辞めていいぞ!!」 「ええ!?」  そして、『ドキッ!! 男だらけの一騎打ち!! 勝てたら辞めていいぞ!!』とスローガンがいつの間にか掲げられていた遥対空手部員の一騎打ち(空手部員人数分の試合数)が始まった。  まあ、唯一の全国レベルの遥相手なので全力でかかっていっても他の部員たちは勝てるはずもなく、バッタバッタと倒されていき、昼になる頃には死屍累々。空手部員の屍が武術棟に積まれていた。 「あっつ・・・・・・。こうなるんなら道着持ってくるんだった」  最後に部員たちに「文化祭とか楽しみにしてるから」と背中を押され、軽音部で頑張っていこうと意気込んだが、如何せん制服で十数人と試合をしたのでベタベタと汗で張り付く。  自販機でスポーツドリンクを買い、音楽室Ⅱに向かう。 「(臭いって言われそう)」  多めに制汗剤を振り、コンコンと音楽室Ⅱのドアを叩いた。 「はいはい。・・・・・・って遥、なんでそんな汗かいてんの」 「簡単には辞めさせないって全員と試合した」 「マジか」  一年生は購買に行っているようで、遥が昼に来ると分かっていて音楽室に一人残っていた鉄郎の分と,後から来る遥の分も買いに行かせているらしい。 「俺の分はよかったのに」 「まあまあ。試合したんなら腹減っただろ。食ってけよ」 「てつの奢りならね」 「当たり前」  遥は「あつー!!」と言い、少し早いと一年に文句を言われていた扇風機の前を独占する。  しばらくすると、外から軽音部一年生がワイワイ言ってる声が聞こえてくる。 「あー!! はるちゃんだー!!」 「こんにちは、皆」 「うす」 「遥くん、なんでそんな汗だくなの?」 「部員全員と試合したんだってよ」  軽音部一年生がどよめく。そして、全戦全勝した、というとさらに驚く三人。 「はるちゃん、そんな強いの・・・・・・?」 「去年は全国行ったよ」 「「「すげぇ・・・・・・」」」  遥は一見すると、女顔でなよっとしているが、実は着やせするタイプで、服の下は案外筋肉質だったりする。本当は着太りする匠海の方が筋肉は少なくヒョロヒョロしている。  匠海は、意外過ぎるその実態に驚きはすれど、新たな一面を知れて嬉しい。 「まあ、全戦全勝したから、これ、出せるよ」 「「「おお!!」」」  遥はスクールバッグから入部届を取り出す。部活名には『軽音部』と綺麗な字で書かれていた。  軽音部一年生は歓喜し、鉄郎は何故か得意げな顔をする。 「顧問の先生、ゴールデンウィーク中来る?」 「今日、昼から仕事あるっつってたから、いるんじゃね?」 「じゃあ、善は急げ。出してくる」 「おう」  遥は音楽室Ⅱを出ていこうとして、ふと、匠海を見る。  匠海は、その穏やかな顔にドキリとした。 「匠海くん、本当にありがとうね」 「え? い、いや、オレは何もしてないっすよ」 「でも、キミのおかげで頑張れた。だから、ありがとう」 「・・・・・・うす」  遥は晴れやかな顔で音楽室Ⅱを一旦出ていった。  顔の少し赤らんだ匠海に、他のメンバーが冷やかしにかかったのは言うまでもない。 ―つづく―
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