第十六話 バイトを始めよう!②

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第十六話 バイトを始めよう!②

 匠海と遥が赤面キャッチボールなどをしていた時。  華澄と鉄郎は、学校から近い駅の近くの繁華街にある、鉄郎のバイト先の雑貨屋に来ていた。  普段、店員も表のドアから入る。鉄郎はドアを開けてやって華澄を先に店内へエスコートする。 「あ、いらっしゃ・・・・・・?? てつろーくん?? ん?? んん?? て、てんちょー!! てつろーくんが女連れてきました!! 朱香たんに連絡案件です!!」 「うるせー!! そういう関係じゃねーわ!!」  店内にいた、二十代前半くらいの男性店員が、奥に向かって騒ぎ出す。  どうやら、鉄郎が女遊びを再開した時にはバイト先からも朱香に連絡がいくようになっているらしい。  鉄郎は頭を抱えながら華澄にそう説明した。 「恋愛できないじゃん」 「まあ、俺が本気になればいいんだと」 「今まで本気なのってあの人だけ?」 「うるせぇよ」  鉄郎は複雑な顔を見られないように華澄の頭をわしゃわしゃと撫でまわした。  華澄は、ぎゃあぎゃあ騒ぎながらもそれは嬉しそうで。  でも、鉄郎が本気になったことが一度しかない事を恨めしく思う。  それがあの先輩だなんて。  まあ、実際は『恋愛』というくくりでは表せられない、もっと色々な経験を鉄郎はしているのだが。 「なになに~、てっちゃん、また女遊び始めたん?」 「後輩がバイトしたいっていうから連れてきただけですけど」 「・・・・・・え? あれ?? 楽器店の??」  店の奥から出てきたのは駅前の楽器店の店長と瓜二つのド派手な女性だった。 「楽器店?? ああ!! 駅前の?? あれ、うちの双子の妹!!」 「ええ!!」 「この人も若いころはあの楽器店で働いてたんだよ」 「こらこら、てっちゃん!! 店長様は今もピチピチでーす!!」 「はいはーい。仕事入りますんで、華澄のことよろしくお願いしまーす」  軽口を叩きながら鉄郎は店の奥へ消えていった。  ちなみに、先にいた男性店員はこの時間で鉄郎と入れ違いらしい。  鉄郎と一緒に奥に消えた。  店の中で店長と二人にされた華澄だが、此処の店長は見れば見るほど楽器店の店長とそっくりだ。 「いやん、見すぎよ♡」 「あ、ごめんなさい・・・・・・。もしかして一卵性ですか?」 「うん。今も親ですらどっちがどっちか分かんないんじゃないかな」  よく見るとピアスやタトゥーも一緒だ。 「ピアスも、一緒?」 「うん。私、施術師してるから、あの子のも私のも全部私が開けたの。やっぱり双子だし同じがよくてね」 「あたしも双子だからお揃いにしたいのわかります。あたしたちは男女だけど」  店長はにこりと笑う。  その笑顔はやはり楽器店の店長とよく似ていた。  店長と話をしていると奥から鉄郎が、高校の制服の上に店のエプロン姿で出てきた。 「てっちゃん、私、この子と奥で話するから店よろしく」 「ういー」  店の奥は、スタッフオンリーの札のかかった扉と、施術室の札のかかった扉がある。  店長はスタッフオンリーの札のかかった扉を開いて、華澄を招き入れた。  段ボールの山の中にロッカーがあって、何も置いてない机とパソコンを置いている机があり、オンラインショップ用の小さな撮影スタジオもある。  店長は、何も置いていない机の向かいに華澄を座らせ、その前に自分も座る。手にはなにやらノートとペンを持っている。 「か、か、か? うーん、えっと、何ちゃんだっけ?」 「華澄です。楠木華澄って言います」 「てっちゃんの後輩だから、高1?」 「はい」  店長は、ふんふん。と頷きながらノートにメモしていく。 「バイト経験は?」 「ないです。割と裕福な家なのでバイトはいいかなって思ってたんだけど、双子の弟がやるって言いだして、じゃあ、あたしも、みたいな」 「・・・・・・てっちゃんの事は好きかい?」 「え?」  カァ・・・・・・と顔を赤らめる華澄に、意味深に笑って見せる店長。 「あの子ね、あんなだけど実は女性不信なのよ。初めての相手に裏切られて、その腹いせに耳に穴開けるってうちに来て。それから女遊びし始めたんかな」 「初めての相手?? 裏切り??」 「まあ、詳しくは本人に聞いて。キミに心開いてんなら話してくれるだろうし」  なんだか、モヤモヤする。  でも、あの人が傷を背負っているなら、癒してあげたい。 「あたし、てつくんが好きです。どの女にも負けたくない。彼を癒したい。だから、一緒にバイトしたいって思ったの。浅ましいかな?」 「いーや、いいんじゃない? いつから来る?」 「てつくんの次の出勤日!!」 「おーけー!!」  それから、華澄は少し店の展示商品なんかも見た。  値段は安くないものもあるけど、高校生でも手が出せるものもある。  ピアスやネックレス、バングル、時計、香水なんかも置いてあった。  展示商品なんかも見て、やっぱり此処がいいと思った。 「じゃあ、明後日からだね」 「お願いします!!」 「俺と同じ日か。帰り送ってやるよ」 「ふふ、ありがと!! 今日は弟が今駅にいるみたいだから一緒に帰ります!!」 「またね~」 「気を付けろよ?」 「はーい!!」  ねぇ、貴方が好きです。  貴方の痛みを和らげてあげたいって思うのは浅ましいですか?? ―つづく―
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