第七話 ひとり慰めて ~貴方に抱かれたいと願った/貴方を抱きたいと願った~ ★

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第七話 ひとり慰めて ~貴方に抱かれたいと願った/貴方を抱きたいと願った~ ★

 土曜日。  遥は、自分を押し倒してきた男を殴ろうとしたが、彼が泣いていたから出来なかった。  おまけに、頻りに「ごめん」と言うものだから、さらに訳が分からない。  でも、もしかしたら・・・・・・、と思う。  幼馴染は自分を好きなんじゃないかと。  自惚れかもしれない。いや、自惚れだ。  自分が恋をして、色ボケしているからこんな事を思ったんだ。  遥は自分の胸に顔を埋めて泣く幼馴染の頭を優しく撫でてやった。  すると、鉄郎はまた「ごめん」と言って遥から離れる。 「お前が泣くなんて珍しいね」 「・・・・・・すまん、いい奴に失恋したんだ。慰めてくれ」 「じゃあ、昼は焼肉でも食べに行こうか。お前の奢りで」 「そーだな、って、俺の奢りかよ」  まだ弱々しいが鉄郎は笑った。  『失恋』、それは、きっと。  どうか、誰かが鉄郎を愛してくれないかと遥は願ってしまった。  幼馴染の恋を知っても尚、匠海が好きだ。  好きで、好きで、愛おしくて。  もっと、彼の色んな一面を知りたい。  でも、色んな一面を知っても尚、彼を好きだろうと想う。  なんでこんなにも、愛おしいんだろうか。 「(・・・・・・俺はとうとう狂ってしまったんだろうか)」  よく知りもしない男、同性を一目で好きになってしまった。  嗚呼、抱かれたいと、この男に滅茶苦茶に組み敷かれたいと想ってしまった。  鉄郎とまた月曜日と言って別れる。家に帰る。仄かに鉄郎の香りがする。  彼はどんな香りを残してくれるのだろう。  彼の温もりは・・・・・・。 「・・・・・・変態かよ、俺」  匠海を想っていたら、股間が膨張し始めた。  これが初めてじゃない。  昨日も、彼を想って、ひとりで慰めた。そして、貴方に抱かれるのはどんな快楽かと鳴いてしまい、切なくなった。 「・・・・・・んっ」  扉にズルズルとしゃがみこんで凭れ掛かり、布から己を取り出す。  ぷるんっと飛び出たそれは、先走りを垂れ流しながら完全に勃起していた。  今日は、両親の結婚記念日。両親はいない。  夕飯も、さっき鉄郎と食べてきた。  もう、どうにでもなれ。 「んっっんっあぁ・・・・・・」  泣いてしまいそうになる。  思わず、彼の名前を呼ぶ。恥ずかしくなる。また、膨張する。 「・・・・・・たくみ、くん・・・・・・あぁぁっ!」  弾け飛ぶ白い雫。  絶頂して、息を荒げながらまた、泣く。  自分の身体を抱きしめて、泣く。 「・・・・・・ごめんね」  汚してしまって、ごめん。  嗚呼、貴方に抱かれるのはどんな快楽でしょうか・・・・・・。  どんなに、幸せでしょうか・・・・・・。  愛してしまって、ごめんなさい・・・・・・。  土曜日、同じ時刻。  楠木家では匠海がまたひとり自分を慰めていた。  生憎、華澄はクラスメイトと遅くまでお出かけだ。  匠海は、まさか遥が自分を想ってシていたなんて思いもしない。  昨日から落ち着かなかった。  色んな遥を、遥の曲を感じて、欲情していた。  でも、昨日は華澄がいた。  万一、覗かれたらがある。出来なかった。  それに、自身の先輩をオカズになんて、と躊躇いがあった。  今日、華澄がクラスメイトと出かけるという。  発散するチャンスだと思った。  最初は、お気に入りのスケベ雑誌を見ていた。  その気にならない。前は出来たのに。  色々試してみて、申し訳なくなりながらも、遥を想った。  己が膨張する。  嗚呼、やっぱり好きだ。  貴方がいい。 「くっ・・・・・・は、るか、せん、ぱい・・・・・・んんっ」  じゅっじゅっと水音を響かせながら上下に己を扱く。  まもなく絶頂を迎えた。 「・・・・・・嘘だろ」  ティッシュペーパーに出た白いものを丸めて捨てて、ベッドに寝転がった。  ボーっとして、幻覚を見た。  遥が裸で跨っていた。  目を擦る。何もない。 「・・・・・・末期かよ」  嗚呼、貴方を抱きたい。  貴方を抱いたらどんなに気持ちがいいのだろう。  どんなに、どれだけ幸せだろう。  嗚呼、貴方が、好きだ。 「・・・・・・遥先輩」 「あ! 匠海くん、こ、こんにちは!」 「う、うす」  月曜日。  ぎこちない動きをしながらも『日常』を演じる二人。  バレてはいけない。この、汚らしい欲だけは。  バレてはいけない。この、初めての純愛だけは。  二人は今日もまたお互いを、犯す。 ―つづく―
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