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「あまり、好ましく無い状態ですね。」
そうですか、という言葉しか出てこなかった。
まるで他人事のようだ。
いつからだっただろうか。異変を感じ始めたのは。
「くれぐれも、無理は禁物ですよ。いいですか。毎日ちゃんと栄養のある朝食を取り、たっぷりと睡眠も取る。そして規則正しい生活リズムをー……」
「ああ、はい。わかってます。大丈夫です。どうも、ありがとうございました。」
ドクターの言葉を制し、私は半ば苛立ちを感じながら診察室を出た。
この診断結果も、もう何度目か。
改善するどころか悪化している。
これ以上病状が悪くなれば、入院しなければならなくなる。
そうすればしばらく仕事も出来なくなる。
今私が離席すれば、色々と不具合が生じる。
それだけは避けたい。
「リサ。」
呼び止める声に顔を上げると、彼が立っている。
「リサ。迎えに来たよ。……どうだった?」
私は首を横に振ってみせた。
「そう……」
何か言いたげな彼の様子に、私は思わず話題を変えた。
辛気臭いのは好きじゃない。
最近のニュースのこと、彼の仕事やご両親のこと、私が手掛けているプロジェクトの話などだ。
仕事の話になると彼の顔が少し曇る。
私は病状に触れられるのが煩わしくて、また話を逸らした。
幾日か過ぎ、彼のご両親と顔を合わせる機会が訪れる。
「久しぶりだね。リサさん。元気にしてたかい?」
「ええ、まぁ……ご無沙汰しております。」
彼の両親はとてもおおらかで気さくな人たちだ。
根は明るくて楽しい人たちなのだが、顔を合わせる度に結婚の話を持ち出される。
「はぁ……疲れた。」
彼の両親と食事を終え、私は自宅に帰ってきた。
今は仕事をする気にもなれず、ベッドに横になる。
40歳を過ぎ、私はもう誰とも結婚する気など無かった。
彼も、それを承知の上で私との恋人関係を続けている。
当人同士は良くても、外野はいつだってお節介を焼きたがるものらしい。
そんなことをうっすらと考えながら、私は眠りに落ちていった。
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