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その日は、存外すぐに訪れた。
私にとって、運命の日。
ついに、この肉体とも離れる時が来たのだ。
病院での検査の結果、手術が必要だと診断された私は手術を受けることにした。
しかし手術時にはもう既に手遅れなほど、病気が深刻化してしまっていたのだ。
「出来る限りの力は尽くしました。……申し訳無い。私がもっと強く忠告していれば……」
「いえ、先生のせいではありません。……僕も、彼女に何もしてあげられませんでしたから……一番近くにいたはずなのに。」
遠くで、彼とドクターの話し声が聞こえる。
程なくして彼がベッドの傍に戻ってきた。
私の手を握り、ただひたすらに「ごめん。」と言って泣き続けた。
「一緒に居られなくて……ごめんね。あなたは私にとっても優しくしてくれた。私は仕事ばかりで全然あなたのことを考えられていなかったのに。それでもあなたはいつでも私を支えてくれた。……ありがとう。本当に、ありがとう。心から……感謝してるわ。あなたの大事な人生だもの。これからは、私のことは忘れて……あなたの人生を、自由に生きてね。」
後悔の無いように。
「……リサ?」
私の傍らで泣き崩れる彼を、私は離れたところから見届けていた。
言い知れぬ解放感と安堵感、それからほんの少しの虚無感と達成感を残して、私の意識はその場を離れた。
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