0人が本棚に入れています
本棚に追加
最終章:私
「ひっく……うぇえ……えーん……うう……ぐすっ……」
大きなクスノキの根っこにもたれて、私と同じくらいの歳の子が泣いている。
膝を抱えて顔を埋め、ずっと一人でそこにいる。
私は気になって、その子に声を掛けた。
「ねぇ、どうして泣いてるの。大丈夫?」
泣いていた男の子は少し顔を上げ、不信感と恐怖心のようなものを滲ませた目で、私のことを見る。
「悲しいの?どこか痛いの?」
私は問う。
男の子は小さく首を振って、「寂しい」と零した。
私は少しほっとした。怪我をしてなくてよかった、と思った。
でも、この子はなんで寂しいんだろう。
私は男の子に手を差し出して、微笑んでみせた。
「じゃあ、あっちで私と一緒に遊ぼうよ。寂しくないよ!」
男の子は一瞬驚いたあと、ぱっと明るい笑顔を浮かべた。
「うん!……いいの?」
遠慮がちに伸ばす手を、私はしっかりと握りしめる。
男の子が立ち上がり、私たちは一緒に駆け出した。
「うん、いつでも遊ぼう。今までみたいに、大人になっても、来世でも、ずーっと。」
私は繋いだ手に力を込めた。
思いもよらない言葉が、私の口から溢れ出す。
「あなたは覚えていなくても、きっと思い出すからね。」
だから、何があっても本当は大丈夫なんだよ。
戸惑うより先に、確信を持った。ああ、たぶんずっと繋がっていたんだ。
今日この日、この時まで、そしてまたずっとこの先も。
私たちはずっと、ずーっと、本当はずっとずっともっと昔から、一度も切れることなく繋がってる。
「だから、また信じてね。
私も、あなたを思い出して、今度はちゃんと信じるよ。」
繋いだ手が強く握り返された。
その瞬間、私の意識は”私”に戻る。
「ただいま、”未来の”私。今帰ったよ。」
最初のコメントを投稿しよう!