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第一章:みのり
「こら、みのり。こっちに来なさい。」
砂浜で散歩していた私は、キレイに黒く焼けた肌の、引き締まった身体付きのモテそうな男に抱き抱えられる。
「あらぁ。みのりちゃん、こっちよ。そっちいっちゃだぁめ。」
若くて派手で化粧で顔がキラキラしている、スタイルのいい水着のお姉さんの傍に連れ戻される。
この二人が私の両親という設定らしい。
私は二人のつまらないノリと話に嫌気がさして、わざと両親から離れようとしたのだ。
しかし、二歳の体ではすぐに捕まってしまう。
「今年も海でいい思い出が出来たねぇ。ねぇ、みのりちゃん。」
「……」
何を言っているのだろう。別に私の希望ではない。
眠っていたところ、勝手にこの二人の都合で連れてこられただけだ。
私は一人で貝殻を集めることにした。
父親は私のことを気にかけているようで、あまり遠くへは行けないが、両親のことなど目に入らないぐらい貝殻に夢中な振りをする。
地面を見ながら覚束無い足取りで歩いていると、若いカップルにぶつかりそうになった。
「きゃ…あらーかわいい!お嬢ちゃん、大丈夫?」
「おお……びっくりした、子供か。」
私は一瞥して大人たちの足元をすり抜ける。
「みのりー!!……あ、すみません。大丈夫です、ありがとうございます。」
また、この男に捕まってしまう。
もう何度目だ。
「みのり、あっちで遊びたいのか?あんまりママとパパから離れちゃダメだぞ。あっちは崖だし、危ないしなぁ。」
むすっとしていると、崖の近くまで連れて行ってくれた。
「ほら、ちょっとだけな。あんまり危ないとこ行くなよ。」
私はおもちゃの熊手で岩を掘る。
崩れた岩からちっちゃい石ができる。
たまに貝殻が埋まってたりもして、そこそこ楽しかった。
窮屈な水着と、汗でくっつく麦わら帽子が少し嫌いだった。
でも帽子を取ったら太陽が眩しすぎて、それもちょっと嫌だから被ったままでいることにした。
人が多いビーチは鬱陶しい。
でも、海は好きだった。
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