第三章:処刑の少女

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家に帰ると、相変わらず父親と母親は喧嘩をしていた。 いつものことだ。 私は無視して自分のベッドに潜り込む。 よくわからない罵声や怒声が飛び交う。 仲が悪いなら、夫婦になどならなければよかったのに、と思う。 喧嘩の言い訳に私のことを言われることもある。 じゃあ、別に産まなくてもよかったのに。 と、私はいつも思う。 育てるのは親の責務だろうが、産むのは義務ではない。 ましてや、『孕むこと』から避ければ何も問題は無い。 無駄な責任を負うことも、口減らしをする必要も。 世の中、馬鹿ばっかりだ。 私は眠りについて、ひと時の安らぎの中に身を投じた。 次の日、目を覚ますと両親はいなかった。 これも、よくあることだ。 私も気晴らしに外へ出た。 鍵もかからない家だから、家の中も外と同じようなものだけれど。 海の近くまで来て、ぼんやりと波を眺めてた。 波の音は心地好い。 誰かの気配を感じて、視線を移す。 少し離れたところに、あの時の少年が立っていた。 屈託の無い笑顔で私に手を振っている。 私は、また少年を無視した。 海に視線を戻す。 波の音が心地好い。いっそこのまま波に攫われでもしたら、もっと心地好さそうだ。 「あ、あのっ!」 また、少年が話しかけてきた。 私は聞こえないふりをする。 すると、少年が果物をひとつ、差し出してきた。 驚いて顔を上げると、少年はまたにこっと屈託無く笑った。 「これ、美味しいから一緒に食べない?」 私は無言のまま、少年から果物を受け取り、口に含んだ。 今度はただ甘くて、とろけるほど甘くて、この世界にこんなにも美味しいものが存在するのかと思うくらいに、美味しかった。 少年は何故か満足そうに、こちらを見ていた。 私には彼の思いが理解できなかった。
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