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序章
「どうしたの。なんで泣いているの。どこか痛いの。」
私は、大きな木の傍でうずくまって泣いている少年に声をかけた。
年も近そうだし、何よりずっと一人で泣いているのが気になったから。
少年は小さな声で言った。
「悲しいことがあったの。お父さんもお母さんもきょうだいも、友だちも親友も先生も、誰もぼくのことをわかってくれないんだ。ぼくの言うことはおかしいって、みんな同じことを言うんだよ。でもぼくはおかしくなんかない。ただ、自分の好きなことをして、素直に思ったことを言っているだけ。それなのに、みんなぼくを馬鹿にして、ぼくの話をちゃんと聞いてくれないんだ。」
だから、悲しくて泣いているんだ。
少年はまた顔を伏せてしまった。
私は少年の頭を撫でて、
「そっか。それは大変だったね。よしよし。でももう、大丈夫だよ。」
と言った。
少年は少し驚いた様子で顔を上げる。
私は少年に手を差し出して「一緒に遊ぼう」と誘った。
少年は立ち上がり、明るく笑って私の手を取る。
「うん!」
そのまま二人で、涼やかな草原の中を走った。
ずっと、しっかりと手を繋いだまま。
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