初めての十二支会合。 -あの日、実はこうだった-

8/9
前へ
/9ページ
次へ
「ところでとらくん、どうしたピョン。さっきからずいぶんと、大人しいピョンけど」  一切話し合いには加わらず、目だけを行き来させる虎にうさぎが聞いた。 「具合でも悪いピョン?」  虎はううんと首を振ると、顎下に黄色い前足をあてがった。ジュルリ、垂れる何か。 「ガ、ガオ……さっきからみんなが、ご飯にしか見えなくて、ガオ……」  ジュルリ、ぽたり。ジュルリ、ぽたり。  大きな虎の口から見えるのは、大量よだれと真っ赤な舌。そして鋭い牙が、上と下に二本ずつ。 「ごめんガ、ガオ。み、みんなを食べたくて、ガガガ、オ……」  己を抑制するように、虎は自身の前足をググっと噛んだ。  ジュルリ、ぽたり。ジュルリ、ぽたり。  その前足が離れた瞬間、皆の背筋が凍りつく。 「ガァオー!!!」 「ぎゃーーーーーー!!!」  猪がスタートダッシュを切ったのを皮切りに、九匹の動物たちが一斉に社務所から逃げ出した。 「ガオー!ガオー!!!」  半狂乱状態の虎には最早(もはや)もう、誰も手がつけられぬ。彼に捕まれば、食される。  ガオガオぎゃあぎゃあ言いながら、火花の如く散った計十匹の背中を見ながら猫は言う。 「び、びっくりして逃げ遅れちゃったニャ……」  恐怖でガタガタ震える猫の足に、ねずみがぽんと前足を乗せた。 「結果オーライっチュ!」  はつらつとしたその声は、怯えのひとつもないように思えた。 「りゅうくんも助かってよかったニャンね。ドキドキしたニャ?」  座布団に腰を据えたまま、微動だにしない龍に対してそう聞いた猫には、ねずみが「ばかっチュねえ」と半笑い。 「十二支の中で一番強いのはりゅうくんチュ。だからぼくは、敢えてりゅうくんの側から離れなかったんチュ。りゅうくんの近くにいれば、とらくんは来ないっチュからね」 「わあ、なるほどニャン。やっぱりねずみくんは昔から、頭が良いニャンね」 「そんなことないっチュよ。でも、そう言ってもらえて嬉しいっチュ。ありがチュウ。ねこくんとは、これからも上手くやっていけそうだっチュ」 「ねずみくん……」  感極まった猫の瞳からは、涙がこぼれ落ちそうになった。それを必死に堪えて、猫は言う。 「ぼくも、そう思うニャンッ」  長年心にあった遺恨が、今晴れていく。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加