虎に育てられた猫

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 怪我をして左目の閉じている父ちゃんはみんなに「虎」と呼ばれている。体中にある縦縞が特徴的だけど、僕の体は何もない。きっとまだ子どもだから縦縞も牙もないんだろうって、ずっとそう思ってた。  でもある時、僕は自分の「名前」を知ることになったんだ。  それは、蝶々さんを追いかけるのに夢中でいつの間にか遠くに来てしまっていた時だった。どこから追いかけてきたのか、一匹になった僕をいつものいじめっ子たちが囲んだ。狼のウル、ジャッカルのジャック、烏のクロ。この辺りの住民も手を焼いている、悪い子どもたちだ。  「おう、チビ公。こんな所まで独りで来るとはな。」  ウルが悪い笑いを浮かべながら僕に言った。  「あのデカぶつがいないんじゃあ、遊び放題だな!」  僕の背後にいたジャックが怖気て低く下がった僕の腰を小突く。  「今日は空を飛んでみねぇか?チビ公よ!」  そう言ってクロが僕の首の皮を嘴で摘まみ、空高く持ち上げたことで彼らのが始まった。飛んだことのない高さから落とされる僕を下にいるウルが口でくわえ、木の枝で遊ぶように僕を投げ捨てる。そこにジャックが頭から突っ込んで来、僕は宙を舞って地に落ちる。やっぱり泣くことしか出来ない僕の頭には、父ちゃんの顔が浮かんでいた。  
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