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事件発生!
あなたが灰になる前に言うべきだった。だけど、言えなかった。
今さらどうにかなるわけじゃないけど、言っておけばよかった。
言葉よりも先に涙があふれ、別離の瞬間が飛び去っていく。
少女が嗚咽するなか、棺が炉の中へ吸い込まれた。
魔法と科学が同居するアーナンダ神聖学園都市。
少女はスカートの乱れを気にせずワイバーンの背に縋りつく。
どうだっていいじゃない。そんなの。たしなめてくれるあの人はもう煙。
慰めるように飛竜がクゥと鳴く。少女はキッと顔をあげ泣き濡れた髪を上昇気流で説かした。「ギリギリ限界まで追いかけて!さよならをいわせて!!」
グルルルル。ワイバーンは翼よ折れろとばかりに力づよく空を切る。
荼毘ののろしは天国へ続いていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「銃乱射、立てこもり、人質、殺人、爆破、盛りだくさんだな」
男は所狭しと並んだ資料を眺め、口笛を吹いた。右手の指を四本、いや、ゆっくりと親指を立てて微笑した。
「お安い御用だと言えないの?」
紺色ブレザーの眼鏡っ娘が目じりをつり上げている。
「イベントが立て込んでて何かと物入りなんでね」
彼は意に介さず左手の指を二本立てた。
「ちょっと! それって今年度予算よ!」
「足りない分は理事長殿に補填して貰えよ。生徒会長さん」
彼は学ランを翻すと、内懐から紙を取り出した。見たこともない商品名と値段が並んでいる。単価は最低でも一か月分の生活費を越える。
「ちょ、なにこれ?」
生徒会長は仰々しい品目に眉をひそめる。
「相手が相手だ。相応の装備が要る」
「みんなから集めた生徒会費よ。行事の準備金よ」
委員長の頑なな態度に学ラン男は愛想をつかした。
「わかった。やりたきゃやれよ。合同慰霊祭をよ」
彼は吐き捨てると部屋から出ていった。
「いいの?」
窓辺に耳の尖った女が腰かけている。紫色の髪を肩になびかせて、黒いセーラー服を着ている。あり得ない制服だ。
「貴女! どっから入ったの?」
生徒会長が駆け寄るとエメラルドグリーンの壁に跳ね返された。派手にめくれ、かわいい水玉模様が覗くカーテンの前に四本指が突き出された。
「撃祷師のセシル。半分でどう?」
「貴女ねぇ!」
慌てて起き上がる会長。セシルは顔を突きつけ、そっと囁く。
「あの男より上手くやってあげる。表沙汰になっちゃ名門の名折れだものねぇ」
会長はしばし目線を泳がせていたが、「わかったわよ」と承諾した。
するとセシルはキュッと彼女を抱き寄せた。
「えっ、えっ?」
戸惑う会長のおでこにキスをした。
「あんたも手伝いな。それが条件」
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