事件発生!

1/4
前へ
/15ページ
次へ

事件発生!

あなたが灰になる前に言うべきだった。だけど、言えなかった。 今さらどうにかなるわけじゃないけど、言っておけばよかった。 言葉よりも先に涙があふれ、別離の瞬間が飛び去っていく。 少女が嗚咽するなか、棺が炉の中へ吸い込まれた。 魔法と科学が同居するアーナンダ神聖学園都市。 少女はスカートの乱れを気にせずワイバーンの背に縋りつく。 どうだっていいじゃない。そんなの。たしなめてくれるあの人はもう煙。 慰めるように飛竜がクゥと鳴く。少女はキッと顔をあげ泣き濡れた髪を上昇気流で説かした。「ギリギリ限界まで追いかけて!さよならをいわせて!!」 グルルルル。ワイバーンは翼よ折れろとばかりに力づよく空を切る。 荼毘ののろしは天国へ続いていた。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「銃乱射、立てこもり、人質、殺人、爆破、盛りだくさんだな」 男は所狭しと並んだ資料を眺め、口笛を吹いた。右手の指を四本、いや、ゆっくりと親指を立てて微笑した。 「お安い御用だと言えないの?」 紺色ブレザーの眼鏡っ娘が目じりをつり上げている。 「イベントが立て込んでて何かと物入りなんでね」 彼は意に介さず左手の指を二本立てた。 「ちょっと! それって今年度予算よ!」 「足りない分は理事長(おやじ)殿に補填して貰えよ。生徒会長さん」 彼は学ランを翻すと、内懐から紙を取り出した。見たこともない商品名と値段が並んでいる。単価は最低でも一か月分の生活費を越える。 「ちょ、なにこれ?」 生徒会長は仰々しい品目に眉をひそめる。 「相手が相手だ。相応の装備(ヤッパ)が要る」 「みんなから集めた生徒会費よ。行事の準備金よ」 委員長の頑なな態度に学ラン男は愛想をつかした。 「わかった。やりたきゃやれよ。合同慰霊祭をよ」 彼は吐き捨てると部屋から出ていった。 「いいの?」 窓辺に耳の尖った女が腰かけている。紫色の髪を肩になびかせて、黒いセーラー服を着ている。あり得ない制服だ。 「貴女! どっから入ったの?」 生徒会長が駆け寄るとエメラルドグリーンの壁に跳ね返された。派手にめくれ、かわいい水玉模様が覗くカーテンの前に四本指が突き出された。 「撃祷師(バスター)のセシル。半分でどう?」 「貴女ねぇ!」 慌てて起き上がる会長。セシルは顔を突きつけ、そっと囁く。 「あの男(ガゼル)より上手くやってあげる。表沙汰になっちゃ名門の名折れだものねぇ」 会長はしばし目線を泳がせていたが、「わかったわよ」と承諾した。 するとセシルはキュッと彼女を抱き寄せた。 「えっ、えっ?」 戸惑う会長のおでこにキスをした。 「あんたも手伝いな。それが条件」
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加