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◇ ◇ ◇ ◇
事件の現場となった亜門科学技術院は数ある科学科高校のなかでも異色の存在だ。例えば錬金術に傾きがちな化学を分子結合学として分離確立し、魔道の入り込む余地を一切排除している。
そこで乱射事件が起きた。主犯格の男は生徒を盾に取り、学校側の交渉を拒んでいる。厄介な事に彼は魔法の杖を揮っていた。薬学部の有志が通気口から潜入、催涙ガスの散布を試みた。
しかし解毒のスペルで無効化されたあげく、とらわれた。科学科高校の面目丸つぶれだ。もちろんまだ通報してない。
「帰宅部の三宅史郎。二年生で非モテ。成績はどん底。もちろん童貞。そら先鋭化するわ」
セシルは水晶玉に犯人の半生をダイジェストして見せた。
「珍しいわね。カーストの底辺は虐めで自主退学されるか病んで辞めるのに」
生徒会長は憐れみより興味を優先させた。
「亜門宮藻、撃祷師の素性を舐めないで」
セシルに言われてぎょっとする。
「バスター? 何で科学科に?」
亜門は眼鏡のレンズに生徒会名簿を投影する。生い立ちや学習態度など詳細に風紀委員の目線で記されている。比較的裕福な家庭に生まれ、良くも悪くも平々凡々に育った。兄弟はいない。
両親はどちらも科学職だ。魔法と接点はない。
「蛙の子が蛙とは限らない。彼が撃祷師であることは確か」
百聞は一見に如かず。二人は現場に急行した。
古びた校舎のガラスが割れている。全ての窓と出入口は電磁レフ板で塞がれ実弾狙撃ができない。
ちょうど弾道学部の生徒が手製の銃器を構えて包囲している。
「
突入します!」
銃声が響くなか、会長が先頭に立って駆けた。
セシルが横に並ぶ。
「射撃中止! 射撃中止!」
彼女が一喝すると皆一斉に構えを解く。
「なんだお前らは?」
学生の一人が詰問した。「生徒です」
彼女は短く答え、生徒手帳を見せた。
「あぁ、生徒会長さん。こんな時に」
部長らしき男がため息をつく。
「犯人との交渉中だって聞いてますけど」
「そうですよ」
会長が答えると部長は黙り込んだ。「わたしたちはその交渉に来たんです」
「もう終わりましたよ」
「え?」
見ると犯人であるはずの亜門は床に転がって震えていた。
「……どういうことですか?」
セシルは銃口を向けながら尋ねた。
「いや、なにも」亜門はただ首を横に振るばかりだ。
「まあいいわ。終わったなら帰らせて貰うわね」
セシルは亜門の襟首を掴むとずるずる引きずっていった。
「待ってくれ、助けてくれぇ」
泣き叫ぶ彼女を尻目に扉の外に出た。「で、どうするの?」
セシルが尋ねると会長は「決まっているじゃない」と答えた。
「校長先生の所へ行きましょう」
「了解」
二人は校内を練り歩き、職員室へ向かった。
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