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◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「なるほど。そういうことでしたら喜んでご協力致しましょう」
二人の説明を聞いた担任の佐藤教諭が快諾した。この男も科学部の顧問を務めるバリツの使い手であり「ミスターK」「Mr・カラテ」と呼ばれる猛者だ。ちなみに本名を「さとこ」という。由来を尋ねてはならない。「いえね、今月に入ってもう六件目なんですよ」
彼は机の上に資料を広げると二人に示した。
「事件はすべてここで起こっているようですね」
生徒会長の目がキラリ光る。「犯人の要求はなんなの?」セシルが口を挟んだ。
「それが、わからないんですよ。ただ『生徒の命が欲しいのか』と訊いても『ちがうちがうそんなんぜんぜ~ん。金よこせ金』『じゃ、金目当てで乱射していると?」教師が生徒に問いかけるも、生徒は無言だった。沈黙が場を支配する。
「つまり犯行の目的ではなく手段が重要なのよ」
セシルの言葉に二人は顔を見合わせた。生徒会長の眼差しを受けて、副生徒会長は渋々と口を開いた。
「目的は金銭、あるいは脅迫かと思います。生徒への危害はその目的を隠す為の隠れ蓑に過ぎないのでは?」
「だとすると人質交換かな?身代金とか?」
会長が呟いたときドアがノックされた。返事を待たずに開いたのは教頭の鬼瓦。角刈り、眉毛無し。どこからどう見ても悪役レスラーだ。そして彼は二人の後ろで目を伏せて立っている少女を見るなり、身を屈めて話しかけた。
「キミ、名前は?」
「|有村小百合と言います。三年生で剣道部に所属しています」黒髪を腰まで伸ばし、制服のボタンを大きく開けた巨乳娘が言った。「ちょっと、誰なのあのエロい子は?」
生徒会長がささやくと副会長が苦虫をかみつぶす。「彼女は、その、剣道部の次期主将候補なのです。だから、その、学校側に許可を求めに参った次第であります……えへっ♪ えへ、あはは」と無理やりな笑い声で取り繕った 。しかし彼の頬がひきつる様にぴくついているところを見ると内心かなり動揺していることは明白だ。一方の小百合と名乗る少女は落ち着き払った様子で堂々と自己紹介した後ペコリとお辞儀をした 。その姿に会長とセシルは胸を撫で下ろしたが、副生徒会長は「くぅ~!私よりおっぱおが大きいぃ」とうめくしかなかった
「いいだろう。この件については私の方で何とかしておこう。君はもう帰りなさい」
「あの、まだ用事は終わってないのですけど」
小百合と名乗った少女が言うと担任は顔をしかめた。まるで邪魔者を見ているようだ。「しかし生徒から聞いたが君達は交渉役ではないのだろ?」
「いい加減にしなよ!こっちも忙しいんだから。帰ってくんない!」
「いいからいいから」
セシルは生徒会長を押しのけると水晶玉を覗き込んだ。「これ、あんたの出番じゃん?」
そこには迷彩色の服に身を包む金髪の乙女がいた。手に持っているのは明らかにライフル、しかもM4だ。セシルが指さすと男はゆっくりと振り向いた。「どうも、こんにちは」
M14のボルトを引くとコッキングハンドルを引き薬室に弾薬を送り込んだ。銃口を下げたまま近づいてくる様が、妙にサマになる。「どうぞよろしく」セシルに向かって敬礼をする姿すらさまになっていた。
男の名は「スピア・アンダーソン。元海兵隊。階級は軍曹。今は軍を辞め、私立探偵を生業にしている」
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