『魔法と銃の世界』

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『魔法と銃の世界』

――四月上旬 ――私立明鏡学園高等部 ――二年三組 放課後になって間もなくの事だった ――ガララララッ 「失礼します」教室に入ってくるなり小百合が大声で言ったものだから生徒は皆振り向いた 。しかし声とは裏腹に彼女はどこか自信なさそうな様子だった 「あー!あん時のお姉ちゃん!」 小百合に気付いた亜門が最初に反応する。 小百合は深々と頭を下げると、鞄から書類を取り出すと教壇の上に置いて広げた A4用紙十枚程だろうか。箇条書きされた文面を流し読む。どうやら犯行声明書らしい。犯人のサインはないが日付が入っている。「えぇ~本日、我々は本校において無差に銃弾を浴びせた。これは紛れもない事実であり我々に一切の弁解の余地は無いことをここに表明するとともに深く反省したいと思うものである」そして小百合はその一枚に目を落とした。そこには被害者の写真と名簿が載っていた。 小百合は「あちゃ~っ!」とつぶやくと頭を掻いた。 被害者の中には剣道部の主将、有村小百合の名前もあったからだ。 セシルが横から覗く「あんた、もしかして知り合いなの?」 「べ、別にそういう関係じゃないけど…」 小百合は顔を赤らめながらそっと耳打ちした。「剣道部の主将として何度か稽古を付けて貰ったことがあるだけなんだけどなぁ~。それに、私にそんな趣味はありませんっ!」 彼女はセシルに向き直ると改めて自己紹介した 「私は剣道部の主将を務めている有村小百合と言います。三年生で部長をしています。以後、よろしくお願いいたします」そう言ってペコリと会釈した 。 彼女は凛々しい立ち振る舞いと清楚で上品な雰囲気が合わさっている為か同性であってもドキッとさせるような女性だった。黒髪が艶々でサラリと背中に流れる。まるで漆のように黒く、絹のようだ 「あたしは生徒会会長の神崎セシル」彼女は腕を組みつつ顎をしゃくった。「一応副会長だけど、ほとんど何もやってないから実質あんたがナンバーツーね」そう言って小百合の手を取ると強く握る。「ふふ、よろしく」 「ちょっと痛いわ」小百合はセシルの手を離そうとするが中々放してくれない そこへすかさず副生徒が割って入った。 彼は生徒会長の手を掴むとグイィと捻り上げようとした。「いだだだだっ!」 「会長。仕事してください」 「分かったから。ちょっと放して、折れる!」「折っても治りますから問題なしです」副生徒会長が言うと「あんたのそういう所、ほんと嫌い」セシルが文句を言う 「ところで、さっき言っていた事はどういう意味ですか?」セシルが尋ねる「え?なんのこと?」「この学校の銃刀法違反って話」 「そう言えば、銃を持って校内を徘徊していたと聞きましたが」と、有村さんも聞いてきた 「銃刀法っていうのがあってね」セシルが説明を始めた。「簡単にいうと武器を持つことに関する法律よ。これがあるから銃火器の携帯には許可がいるのね。で、これがいわゆる警察の許可なんだけどさ」彼女は制服の内側から小さなカードを取り出して見せる。そこにはセシルの顔が描かれていた。「ほら、見てよこの証明書」 「すごい、本物のようですね」「そうそう。でね、銃刀法は十八歳未満には原則として拳銃等の持込を認めてはいないんだ」 彼女はセシルに顔を寄せ、そっとささやいた「実はあたし、今度十九歳になるのよね」「そうでしたね」「だから大丈夫よ」「ダメですよ」セシルが頬を膨らませていると「つまりこういう事かしら?」 有村さんは納得したように肯いた 「校則に違反していないから問題ないと」「違う違う。この学校は私有地で、その敷地内で発砲したことの方が重大なの」セシルが反論する「でも、この学校の所有者って……」 「もちろん国よ」セシルが胸を張ると、有村さんは困ったように微笑むだけだった 「まぁ、そう言っても法律じゃあ仕方ないし」彼女はため息をついた するとセシルは再び机に手を突いて乗り出すようにして身を前に乗り出すと「でもさ、この銃が本物だとすれば、まずいんじゃない?」と、彼女の手にある銃に視線を向けた 「これはレプリカ」セシルの言葉を聞いて、ほっと安堵のため息をもらす。 ――数分後 「え? 銃が奪われた?!」有村さんが素っ頓狂な声を上げると、「どうやらそのようね」とセシルは神妙にうなずいてみせた。「誰が奪ったの?」 彼女は小さく首を振る 「分からない」「何の為に?」 セシルが目を瞑る ――十分後 彼女はゆっくりと瞼を開くとその青い瞳を向ける。そして静かに口を開いた「……恐らく、奴らが動き出したんだ」4章 『魔法使いの従者たち』完 ――四月下旬(某県郊外・山の中) 鬱蒼とした木々に覆われ薄暗い山中を進む二つの影。一つはスーツに身を包んでいるがもう一つは迷彩柄のツナギを着ていた。
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