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彼らは木の間を抜け、藪をかき分け進んでいく。スーツの男が後ろを振り返ると腰のベルトからぶら下げていたポーチのようなものを手に取る。そしてそこから何かを取り出すと、それを地面に落とし踏みつけると、たちまち辺り一面に煙が立ち込め、あっという間に視界が遮られた。その様子を確認した男は先へと進んだ。
しばらく歩いただろうか。再び振り返ると男達はそこに居なかった。
「よし、予定通り作戦を開始だ」
男がつぶやくとインカムに向かって指示を出す。
「了解。これより潜入任務を開始する」
通信が途切れ、暗闇の中に沈黙が流れた。
「あの子たちが心配なんです。わたしも一緒に行かせてください」
小百合は深々と頭を下げた。
セシルが小百合に顔を上げさせた。
「いや、あのねぇ」
呆れた口調で言いかけた時「いや、いいんじゃないかな?」
会長の声で二人の視線が集まる。
「彼女を連れていこう」
セシルが賛成した。
――それから二週間あまり過ぎた五月一日。私立明鏡学園の校舎屋上から眼下を見下ろす二人の姿があった セシルと小百合は、柵の上に両足を乗せて寄りかかり、眼下の様子を見つめている。
「今日から三年生は修学旅行なんだよな」
「一年の頃、私も同じところに行ったわ」
二人は雑談を交わしていた。
セシルは小指を立てて言った。
「あれ?小百合ちゃんって去年までこっちに居たんじゃなかったけ?」
「ええ。だけど、二年生の時に両親が海外に行くことになって。それについていったから……」
小百合は少しだけ視線を落とした。
「ふーん。それで転校してきたのか」
彼女が納得していると、「神崎さんも一緒だったのよね」
「うん」セシルはうなずくと空を見上げた。
(あ、飛行機飛んでるわぁ。どこの国のだろう。また変な色の機体が居るなぁ。なんか全体的に紫っぽいし、塗装が斑だ。なんだっけな。昔読んだ漫画にそんなキャラが乗ってたような気がするんだけど、名前が出てこないや」
小百合が不思議そうにしていると「どうかしたの?」と尋ねられ我に返る。「あ、いえ なんでもないの」
小百合は慌てて否定する。
その時だった 小百合とセシルが身構えた。それは、何者かが自分達の頭上に魔法を行使した気配を感じたからだ。
彼女は目を閉じると意識を集中させ、神経を尖らせる。
そして「いた」と短く呟いた。
セシルが眉根を寄せながら
「どんな感じの奴?」
「三人。全員同じタイプ」
小百合は人差し指を立てるとセシルは首を傾げた。
「えっと、どういう意味?」
「敵は一人だけ。だけど三人いる」
セシルが「?」を浮かべて腕を組む。
「どういうことだろ?」
「多分、擬態だと思います」
「へぇ」
セシルが関心の声を上げる 。
すると、小百合は右手を胸元に置くと左手を前に伸ばし、その手の平を広げた。
同時に「お願い!」と叫ぶ 。
その瞬間。手にしていた指輪に光が灯った。
小百合はその光る指輪を天高く掲げると「チェンジ!!」叫びと共に勢いよく地面を踏んだ
直後 轟音と閃光が周囲を包み込み
――数秒後、静寂が訪れた。
やがて風が吹き、木々をざわめかせる音が響き始めた。
雲ひとつない真っ青な晴天が広がっている。
ただセシルだけが、目の前で起きたことにただ困惑した様子で固まっていた。
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