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「飛び降りなんてやめろやめろ、気分悪りぃな。おい、こっちこい」
「え······」
彼は手招きをする。
「こっちに上がってこい」
「あ、はい······」
拒絶できず、私は彼に従って塔屋の上へと登る。
春風が陽気を運び、私の黒髪を撫でる。いつもは他人と目を合わせないように長くしていた前髪は払い除けられ、彼と目が合った。
吸い込まれるような力を持った瞳。遠くからだと恐ろしく感じていた眼光は、不思議と安心感を与えてくれる。まるで私を護ってくれるような······そんな幻想を抱かせるものだった。
「あの······私はどうすれば······」
「そこで仰向けになれ」
指差された先では彼のものであろう上着が広げられている。
何をされるのだろうか······。
不信感を募らせていると
「何もしねーよ。上着広げてんのは、床が汚れてるからだ。オレは気にしないが、女子は気になるだろ」
こちらから尋ねなくても説明してくれた。
「わ、分かりました」
彼の指示通り、上着に身を預けて仰向けになる。彼が直前まで着ていたのだろう······温かさが私を包み込んだ。
「そのまま空をじっと見てみろ。視線をブラさず、真っ直ぐに」
天気は快晴。真っ青なパレットには雲一つ描かれおらず、特に見るものはない。
────だけど
「何を感じる?」
「少し······怖いです······」
そう、私は恐怖を感じたのだ。
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