死にたがり

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死にたがり

 高さ12メートルの校舎屋上。  ここから自由落下すれば、速度は時速55キロメートルに達する。  地面にぶつかった衝撃で全身打撲による骨折、内臓破裂、脳挫傷(のうざしょう)により死亡へと至る。 ────と、ネットに書いてあった。  ご丁寧なことに『飛び降り自殺』と検索すれば『こころの相談ダイヤル』が一番上に出てくるけど、そこで思い留まるのは本気でやろうとしていない人だけ。  私のように何も感じないほど追い詰められ、あとは息をするのと同じように行えばいい人間は、そんなページは見ない。  見るのは、どの部位から落ちれば確実に死ねるか······ただそれだけだ。  頭から落ちよう。 そう決断した私は屋上に備え付けられたフェンスに指をかける。  よじ登って向こう側へ行けばいいだけ。そうすれば、あそこへ逝ける。  遺書はない。書こうとしても白紙(はくし)()じるだけ。だから、何も(のこ)すものはない。  瞳に絶望を宿した私は、虚無(きょむ)の心で足をかける。  さあ······逝こう  行動に移した────その時だった。 「よお、てめぇ······死にたがりか?」  突然聞こえた声。  幻聴ではない。その声は背後から聞こえ、私の行動を止める。  一体誰が······  私は振り向き、声の主を探る。  屋上に備えられた塔屋(とうや)。その上から少年が私を見下ろしていた。  栗色のミディアムヘアに細身の高身長。私を見る目は鋭く、刃物を突きつけられたような恐怖を感じさせる。私は声が出せなかった。
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