13人が本棚に入れています
本棚に追加
『マジでウザイ』
三人の元カノが全員言った台詞である。きっと俺は考え方そのものがウザイんだろう。
だが!
今日ようやくデートにこぎつけた新沼さち先輩だけには言ってほしくない。もう繰り返さない。今度こそ気遣い上手な男になって、ウザイの言葉に怯えない未来を描くのだ!
それなのに、ああ、なんという体たらく。やっとデートに誘えたというのに、また俺は気遣いを間違えた。
さち先輩と一緒にいれば、きっと楽しくやれるはず、なんて甘い考えを持っちまった。
彼女には厳しい門限がある。だからこそ、すべてをちゃんとエスコートして、一日の終わりに告白するつもりでいた。評価ポイント爆上げで、互いに見つめ合って抱擁してチューしたかった。けれども俺は、今日の日のハッピーエンドばかりを考え、肝心要のスタートラインを軽く見ちまった。
以前に本で読んだことがある。
付き合う前の評価が高いほど、付き合ってからの減点が激しいのだ、と。
少なくとも俺は、さち先輩にとって良い後輩だったはずだ。職場の成績も悪くなく、広いエリアを任せられるだけの信用も勝ち取ってきた。彼女が俺の将来性を見込んでくれたとするならば、それに応えうる男であるよう自己研鑽してきたつもりだった。デートに誘ったときの彼女の嬉しそうな顔からも、交際に至る好感触は確実にあった。
しかし浅はかな男・朝田貴夫よ。
貴様は相変わらず同じ失敗を繰り返すのだな。
もしも、さち先輩が俺と付き合う前提で来てくれたら、いくらか挽回のチャンスはあるだろう。多少の幻滅も盛り返すことが可能だろう。
おそらく……、多分……。
まずは待ち合わせ場所である駅前のカフェがしくじれない。入口に大きなくまのぬいぐるみが鎮座するあのカフェは、三度通って下調べしておいた。コーヒーは不味いが、アイスココアは絶品だ。それをどうやって薦めるか。俺が考えていたプランは、減点状態では偉そうに映る。かと言って、相手を尊重しすぎては無難なアイスコーヒーあたりに落ち着いてしまう。
おう、そうだ、彼女より先に店へ入り、アイスココアを二つ頼んでしまってはどうだ。そしてこう言うのだ。「暑かったでしょう。冷たくて美味しいココアをどうぞ」って。我ながら悪くないアイディアだ。そうと決まれば早く店に入らないと。待ち合わせまであと二十分──
その名案を、過去の女たちが否定にかかる。
『貴夫の名案ほどウザイものはないわ』
やめろ!
やめてくれ!
俺は生まれ変わったんだ!
さち先輩に出会い、本当に優れた気遣いというものを教わった。さりげなく、相手を慮って、程よい距離感を保つ。近づき過ぎると互いに怪我をする。すべての人間はハリネズミみたいなものだから。
大事なことを教えてくれたさち先輩。笑顔が可愛いさち先輩。未熟な俺を甘えさせてくれるさち先輩。──彼女だけは失えない。他の男に渡してたまるか! 今回の俺の気遣いは、初めての正解を叩きだすしかないのだ!
最初のコメントを投稿しよう!