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制服のズボンのポケットから500円玉を大切そうに取り出すと賽銭箱に入れ、男の子は手のひらを合わせた。
「女子にモテますように」
……あれま。
雲を掴むような、なんともぼんやりした願望だ。
でもこれを叶えたら、初めての食べ物にありつける。
だから、早足で参道を戻って行くその肩に、あたしはちょこんと乗っかった。
もちろん男の子には見えない。
着いたのは小さな一軒家。
家屋に対して庭はずいぶん広い。
玄関を入ると、奥から女の人の声がした。
「隆浩ー、おやつは冷凍庫にあるピザ食べといてー」
男の子、いや隆浩は返事もせずに、キッチンに入るとピザをトースターに放り込んでから2階へ上がった。
入った部屋は、えらくゴチャゴチャだ。
服は脱ぎっぱなしであちこちに引っかけてあるし、床にはわけのわからない部品や分解途中の家電なんかが無造作に置いてある。
「おっ、いてっ」
部屋の主の隆浩でさえ、そんなことを言いながら歩く始末だ。
カバンを机の上に置き、靴下に刺さった電線のかけらを引っこ抜きながら、隆浩は制服を壁のハンガーにかける。
あのさあ。
あんなお願いしておいて。
たとえモテたところでこの部屋じゃあ、女の子だって呼べやしないじゃない。
わかってんのかねえ?
あたしはため息をついた。
これはなかなか前途多難だ。
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