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ああ、お腹がすいた。
あたしの名前は、萩ノ枝。
小さな稲荷神社のお使い狐。
あたしたちの食べ物は、願掛けが叶うと生まれる霊的な宝珠だ。だから叶うための手伝いをする。
本当は主神の稲荷神さまのお仕事なんだけど、とにかくお忙しい方で各地を飛び回っているから、あたしたちでできることはあたしたちでやる。
つまりまあ代理人みたいなものかな。
ご褒美が宝珠ってわけ。
だけど問題がある。
そもそも、誰もお願いしに来ないのだ。
自分の神社に来たものにしか手を出しちゃいけないルールなので、神社の規模や知名度で、願掛けの頻度に雲泥の差がつくのはしかたない。
でもそれにしたってこの神社、あまりにも存在感が薄い。
まず、鳥居。
林立する雑居ビルの隙間に立ってて肩身が狭そう。
そして境内。
常駐の神職すらいないし、敷地もすごく狭い。
拝殿も本殿もすごく小ぶり。
さらに参道。
左に曲がってるせいで、外からの見通しは最悪だ。
おかげで前を過ぎる人さえ、ろくに見もしない。
これじゃ、あんまりだ。
あたしはまだここに来て日も浅いから、先住の双子狐、朝ノ露と宵ノ霧にそう訴えた。
けど、二人とも本殿の冷たい床に寝そべったまま、なんにもやる気がないようだった。
「無理無理。がんばったってこんなとこ誰も来やしない」
「生き物と違ってうちらは食べなきゃ死ぬわけじゃないんだから」
「ばたばたしてもエネルギーの無駄遣い。あんたもこっちにおいで」
「ひもじさなんてすぐに慣れるよ」
そんなことを呑気に言うだけなので、あたしはプンプン怒りながら本殿を出た。
そうしたら驚いたことに、拝殿に高校生らしき地味な男の子がいた。
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