指輪

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指輪

『ごめんなさい…』 あなたが居なくなった車の中…。 私は1人、運転席に座っていた。 『ごめんなさい…』 その言葉しか、あなたに伝える言葉が見つからない。 付き合って2年。 上手くいってたはずなのに…。 あなたと離れた理由… それは… 突然のプロポーズ。 どうしてかな… あなたが、震えながら開けてくれた指輪の箱。 あなたが、緊張しながら伝えてくれた、 「結婚しよう」 の言葉。 私は指輪の箱を受け取りながら、 『どうしよう…、どうしよう…』 頭の中には、この言葉しか浮かばなかった。 『どうしよう…、ごめんなさい…』 心の中で何度も何度も繰り返した。 下を向き顔を覆い泣いている私の涙を、嬉し涙だと思うあなたの照れ臭そうな声に、 『違うの…。そうじゃないの…』 頭では思うけれど、言葉には出来ない。 私の泣き方の不穏な空気に気付いたあなたの戸惑い。 目を閉じていても肌で感じていた。 車の中の空気が冷えていく様な気がした。 あなたに言えない言葉、それは… 私は…、 私は…、 指輪が嬉しくなかった…。 なぜなのか…、わからない。 そんな自分に、私も戸惑っていた。 涙を落ち着かせて、あなたと向き合う。 『結婚はするけれど、この指輪は待って…』 とっさにした返事は、その場しのぎのウソに変わってしまった…。 結婚をする前に考えたいと、あなたと距離をおいてから一週間後の今日、別れを伝える事に…。 何度も、何度も聞かれた理由。 『ごめんなさい…。ごめんなさい…』 私は謝ることしか出来なかった。 『あなたを愛していなかった』 その言葉を直接告げることが出来なかった。 私は指輪を見た瞬間、本当の自分の気持ちに気付いてしまっていた…。 あなたと別れた車の中。 ただただあなたに申し訳なくて、申し訳なくて、私は泣くことしか出来なかった…。
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