キュリオシティ

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 ほとんどの人がしんと寝静まった時間帯に、その妖精は、そっと窓をすり抜けます。  妖精の名前はキュリオ。  ずっと昔からこの国に住んでいる妖精で、印籠を持ったおじいさんのように、諸国漫遊を趣味にしています。  彼女はあまりにも小さくて、うっかりすると踏み潰されてしまいます。アリの方が何倍も大きくて、そこいらの犬や猫に踏まれただけでも想像以上のダメージを負います。いつも気をつけているのですが、妖精病院に担ぎ込まれることが多いから困ったものです。  人間の目では、キュリオの姿を見つけられません。虫眼鏡で見れば何とか輪郭は確認できますが、彼女の豊かな表情までは見ることができません。実はとても可愛い顔をしていて、そんじょそこらのアイドルなんか足元にも及ばないぐらいのべっぴんさんです。  妖精の世界では、キュリオのファンクラブがあるそうです。誰にでも笑顔を振りまき、歌声も澄んだ鈴の音のように美しい。花の香りのような匂いも、快活と分かる性格も、全ての者を魅了するだけのものを持っています。ですが、残念ながら人間にはぜんぜん見えないのです。きっと一目見れば、あなたもハートを射抜かれるはずなのですけれど。  それでも彼女は、自分を見てくれない人間が大好きだ、と言っています。  人間は、一人ひとりにすごく個性があって魅力的です。良い人にも良くない面があり、悪い人にも実は優しい面があります。それぞれに色々な性格があるので、カテゴライズすることができません。その人間を知れば知るほど、チャーミングな素顔を見つけることができます。どんなに前向きな人も、どんなに後ろ向きな人も、どんなに優しい人も、どんなに傷ついた人も、魂の色は同じで、しかし、まったく違うのです。  仮に人間にとって、とてもつまらない一日だったとしても、キュリオの目を通せば、いくつもの発見がある冒険的な一日であることもたくさんあります。日々の疲れや、心の栄養不足で人間が気づけていないだけ。周囲にある幸せや、誰かに想われていることに少しだけ気を払ってみると、人間の暮らしは劇的に向上するはずだ、と彼女は言っています。
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