第1話  神はサイコロを振らない

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第1話  神はサイコロを振らない

「えー……皆さんも知ってのとおり、今日からクラスメイトが増えます。 田中くん、入りなさい」  教室のドアが、するりと開く。  クラス全員が注目する中、田中と呼ばれた少年は前を見据え、つかつかと教壇へ歩を進めた。  身長は190㎝ぐらいあろうか。 真っ直ぐ通った高い鼻筋で、日本人離れした端整な顔立ち。  真っ白い肌、栗毛色のウェーブした髪、そして瞳の色は宝石のようなターコイズブルーだ。  途端に女子達が色めきだつ。  彼は教壇に両手をつくと、教室を見渡しながら口を開いた。 「田中 ホームズ太郎です。 イギリスのハンプシャー州から来ました。 ウィンチェスター・カレッジでは飛び級で3年生だったけど、この湖南(こなん)学園では諸君と同じ、17歳の2年生です。 よろしく」  田中がウィンクすると、女子達からキャアキャアと黄色い声が上がる。 「じゃあ田中くん、自分の席に着きなさい。 あそこだ」  担任が僕の隣の空席を指差す。  彼は美しい姿勢をキープしたまま、静かに歩み寄り、僕の隣に腰掛けた。  すごい……!  こんな長野県の田舎町で、ハーフなんて生まれて初めて見た。  1月に転入してくるなんて、随分珍しいな。  一体どんな人なんだろう……?  物思いに(ふけ)っていると、小声で呼び掛けられる。 「キミ。 ねぇ、そこのキミ」  ……ん? 呼び掛けられているのが自分だと気づくまでに、5秒ほど要する。  やばっ、転校生だ。 物珍しそうにジロジロ見てたのがバレたか?  どうしよう、どうしよう! 「そう、そこの、ゴールドフィッシュみたいな顔した、ユーだよ」 「ゴールドフィッシュ……って、金魚? いきなり失礼だね君……」 「ボクは残念な事に、今日、消しゴムを忘れたようだ。 貸してくれたまえ」 「えっ……貸したら僕のが無くなるんだけど……」 「ボクはそれで一向に構わないよ。 さぁ、今すぐ渡しなさい」 (何なんだコイツ……)  それが僕とホームズ君との、運命的な出会いだった。  第一印象は最悪だったけれど、休み時間には、僕等はすっかり打ち解けていた。 「えっ、ホームズ君、バイリンガルじゃなくて、英語と日本語以外も喋れるの?」 「まぁね。 ドイツ語、中国語、フランス語も合わせると、ペンタリンガルかな」 「すっごいな……前に通ってた高校って、イギリスの名門校なんでしょう?」 「大した事ないよ。 まぁ歴代英国首相や大臣、学者も多く輩出し、『ザ・ナイン』なんて俗称で呼ばれてたがね」 「すごい……さぞ頭も良いんだろうね」 「人並みだよ。 ま、幼い頃にIQを測定した時は、160だったかな」 「ひぇっ……宇治原以上……規格外のスペックだ……」 「ところで如何にも平凡そうなキミ……名前は?」 「ホントに失礼だね……。 僕は和兎村(わとむら) (たくみ)っていうんだ」 「プッ、変な名前だな」 「君もホームズの部分以外、めっちゃダサいじゃないか!」 「ははっ、気を悪くしないでくれたまえ。 キミには特別に、ボクと友達になる権利を与えよう」 「なんっっで上から目線なんだ……」  こうして僕達は、友達になった。  とても変わってるけど、悪い人ではなさそうだ。  それに彼と友達になるのは、僕にとっても大きなメリットだ。  天才のホームズ君なら、僕が所属するクラブで次々発生する怪事件を、解決に導いてくれるかもしれない――。
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