第2話  地図もコンパスも持たずに

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第2話  地図もコンパスも持たずに

「……で? ここが例のオカルト研究部かい?」  小さな部活に与えられた部屋は、部室と呼ぶのも(はばから)れるほど狭っ苦しい。  窓一つ無い、更衣室程度の窮屈なスペースに、パソコンやテレビ、心霊写真集や呪いのビデオ等が、雑然と置かれている。  部屋の中央に配置されたテーブルの周りをぐるりと取り囲むように、5名の部員が着席している。 「メンサの会員でもある君に、我がオカルト研究部に次々起こる不審事件を、解決してもらいたいんだ」  部員達が見つめる中、ホームズ君はため息をついた。 「やれやれ。 まぁ、消しゴムを貸してくれたよしみだ。 助けてやろう」 「ありがとう! ホームズ君!」 「しかし君は運が良いな。 僕の祖父は、イギリスでも有名な探偵なんだ。 立ち所に解決してあげようじゃないか」 「本当に!? やった、期待以上だ! ツイてるっ!」  眉間にしわを寄せた虎杖(いたどり) (れん)が、割って入る。 「オイオイお前等、さっきからマジで言ってんのか?」  浅黒い肌に、厳つい人相。 ハーフのホームズ君より、ド派手な金髪だ。  比較的大人しい生徒が多い湖南学園では珍しい、画に描いたような不良。 「確かに。 事件ってさぁ、和兎村(わとむら)はオーバーなんだよ。 あんなの、偶々の事故だよ」  甘ったるい声で、猪瀬(いのせ) 雄真(ゆうま)も同調する。  垂れ目に3連ピアス。 スパイラルパーマをかけた、学園きってのチャラ男だ。  親が薬局のチェーンを経営しており、筋金入りのボンボン。 「ぼっ、僕は、ただの事故とは思えない。 きっと半年前、肝試しで入った廃墟で呪われたんだよ。 あそこはヤバいんだよ……」  牛乳瓶みたいな厚底眼鏡をかけた馬場(ばば) (まさる)が、不安そうに吐露する。  アニメや声優のオタクで、怖がりのくせに 大のオカルトマニアだ。 「フン、下らん。 呪いなんて、ただのプラシーボ効果だ」  鹿島(かしま) (つかさ)が、呆れ顔で吐き捨てる。  学年一の秀才で、湖南学園の生徒会長を務める、文化系イケメン。 「何でそんな現実主義者(リアリスト)が、オカ研に所属してんのよ」  オカ研の紅一点、南野(みなみの) あかねがツッコミを入れる。  容姿端麗、才色兼備。 湖南学園のマドンナと呼ばれている。  かく言う僕も、南野さんに密かに想いを寄せる生徒の一人だ。  そもそもオカルトのオの字も興味ない僕が入部したのも、彼女に誘われたからである。  僕が部員を一通り紹介すると、ホームズ君は、緩くウェーブした前髪を掻き上げた。 「見事に個性的なメンバーばかりが集まったものだね。 唯一モブっぽいのは、キミだけか……」 「どうせ僕は脇役の金魚顔だよ……」 「ボクが華麗に解決するから、事件の概要を話したまえ」  僕は若干ヘコみつつ、説明を始めた。  まず一人目の被害者、熊田(くまだ) 隆史(たかし)。 事件は今から2か月ほど前。  通学電車を待ってる時、ホームから転落。 電車にひかれて轢死(れきし)。  次の被害者は、犬飼(いぬかい) (たける)。 1か月前のある夜、突然家を出たまま、現在も行方不明。 「ばぁ~か、偶々2人死んだだけだろ。 ってゆーか犬飼に至っては、死んだかどうかも分からねぇ」  ヤンキーの虎杖が、不服そうに訴える。 「そうそう。 ただの偶然だってば。 熊田は運悪くホームから落ちただけだし、犬飼はバカだったから、おおかた家出でもしたんでしょ」  面倒くさそうに、優男の猪瀬も頷く。  僕は少しムッとした。 「こんな田舎の高校で、2名もの生徒が相次いで死亡、或いは失踪した。 しかも2人とも、このオカルト研究部に在籍していたんだ。 こんな偶然があるかい?」  オタクの馬場が、大袈裟に震える。 「9か月前に自殺した、芹沢(せりざわ) 若菜(わかな)の怨霊の仕業かも知れない……」    優等生の鹿島が、眼鏡の真ん中を指で持ち上げる。 「非科学的な事を吹聴するのは止めろ。 令和の時代に、ナンセンスだ」 「だ~か~ら~、さっきから同じ遣り取りをしてるよ、キミ達」  南野さんはウンザリした顔で、突っ込んだ。  猪瀬が口元に微笑を漂わせながら、じゃれつくようにささやく。 「そんな事より、あかねちゃん。 今週の日曜、俺とデートしない? こんだけアプローチしてんだから、そろそろお茶ぐらい……」 「イヤよ、貴方みたいな軽薄な人。 絶対お断りだわ」 「連れないなぁ、あかねちゃんは……」  猪瀬は大きなため息をついた。  僕は南野さんを平然とデートに誘える猪瀬を疎ましくも、羨ましいと思った。 「……とまぁ、こんな感じなんだよホームズ君。 偶発的な事故かもしれないけど、僕にはただの巡り合わせとは思えない。 僕と一緒に、調査して欲しいんだ」  目を閉じたまま、ホームズ君は口を開いた。 「その必要は無い」 「えっ?」 「何故なら、僕には犯人が誰なのか、もう分かったからね」 「えっ、嘘でしょ? マジで!?」 「『オカ研の死神』は……キミだ!!」  ホームズ君は、猪瀬を指差した。
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