第3話  常識をあざ笑う

1/1

29人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

第3話  常識をあざ笑う

「はぁ? 『オカ研の死神』って何? 俺が熊田と犬飼を殺したって事? やってねーし」  訝しがる猪瀬を横目に、ホームズ君は舌鋒(ぜっぽう)鋭く指弾(しだん)を始めた。 「1件目のホーム転落は分からない。 ただ少なくとも2件目、犬飼氏の行方不明に関しては、殺ったのはキミだ」 「はぁぁ~~!? 何を根拠に……」 「キミは犬飼氏を殺害した後、薬品で溶かして凍らせ、海に捨てたんだ。 それが可能なのは、親が薬局を営み、容易に薬品が手に入るミスター猪瀬。 キミだけなのだよ」 「いやいや……何で親が薬局の社長してたら、犯人扱いされんだよ」 「言い訳は止めたまえ。 日本に来てから読んだ、闇金ウシジマくんという漫画に描いてたんだ」 「ソースはウシジマくんかよ! 名誉毀損だぞテメェー!」  怒り心頭の猪瀬を取りなしつつ、ホームズ君に質問する。 「ホームズ君、……マジで言ってる? っていうか、証拠はあるの?」 「無い」  あっさりとゲロッた。 「うぉおい、流石にヤバいよ! 訴えられるよ!」 「フッ、安心したまえ。 今のはほんの戯れだ。 ボクが本当に知りたかったのは、今の話で激しく動揺した者……『オカ研の死神』は、キミだ!!」  今度は馬場を指差した。 「えぇぇ!? ぼ、僕!? ただビックリしてただけなんだけど……」  僕は仲裁に入りつつ、再度ホームズ君に確認する。 「ホームズ君、根拠は? まさか……馬場の顔色が変わったから?」 「その『まさか』だ」 「オィィイ! もうお前、黙ってろよ! ホントにボコられるよ!」  ホームズ君は興味ないとばかりに、プイッと顔を背けた。 「まっ、今のもただの冗談だ。 気を悪くしないでくれたまえ、諸君」  虎杖(いたどり)は呆れて席を立った。 「ラリッてんのかコイツ。 おい和兎村、妙な奴と関わんな。 馬鹿馬鹿しい、みんな帰ろうぜ」  他の部員達も、虎杖の後を追うように、ゾロゾロと部室を後にした。  ポツンと取り残された、ホームズ君と僕。 「あのさぁホームズ君……さっきのはマズいよ。 さすがに皆、怒るよ……」 「やはりキミはポンコツだな。 さっきの会話の中で、ボクはオープンクエスチョンとアセンブリという、二重の心理テクニックを仕掛けていた」 「えぇー!? てっきり気が触れちゃったのかと……」 「ボクが最初に睨んだとおり、やはりミスター猪瀬が怪しい」 「ホントに!? 今度は信用して大丈夫なの!?」 「ああ、間違いない。 彼の動向を、明日から二人でマークするんだ。 キミを僕の相棒に任命する。 いいかい? ワトソン君」 「和兎村(わとむら)なんですけど……」  猪瀬の死体が見つかったのは、翌朝の事だった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加