第5話  雪の降る町

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第5話  雪の降る町

 ホームズ君は、単刀直入に切り出した。 「諸君に集まってもらったのは他でもない。 ミスター猪瀬の死に関する事だ」  虎杖(いたどり)は渋々発した。 「オカ研で3人も犠牲者が出たら、さすがに偶然では済まねーよな。 猪瀬の死体は、緑に変色していたそうだ」  馬場はガタガタ震えている。 「やっぱり廃墟に行った時の呪いか……それとも、芹沢 若菜の怨念か……」  鹿島は鼻で笑った。 「面妖な話をするなよ。 あまりに非論理的だ」  南野さんは怪訝そうな表情だ。 「でもさぁ、何でオカ研が標的な訳? 私達、誰かに恨まれるような事した?」  ホームズ君が口を開く。 「つまり、諸君には何も身に覚えが無いと?」 「無い!」  全員の声が揃った。 「じゃあ諸君の、昨夜のアリバイを聞こう」  南野さんは眉をひそめた。 「ちょっ……事情聴取ってコト!? まさか本当に、犯人が私達の中に居るって疑ってんの?」  思わず僕が取りなす。 「まま、さすがに そこまでは思ってないよ」 「思ってるさ。 犯人はこの中に居る!!」 「ちょっ、ホームズ君、みんなナーバスになってるんだよ。 滅多なこと言わないで!」 「犯人がこの中に居るのは間違いないとして、あと分からないのは、犯人の正体と、犯行動機と、殺害方法と、アリバイと……」 「全然分かってねぇじゃねーか!!」  虎杖が声を荒げる。  僕は もっともだと思いつつも、提案した。 「まぁまぁ、無実を証明する為にもさ。 昨日部室を出た後のことを、できるだけ詳細に教えてよ」  虎杖は嫌々語り始めた。 「俺は猪瀬と鹿島と馬場と4人で帰ったぜ。 家で晩飯食った後、フラッとバイクで松原湖(まつばらこ)に行った」  松原湖は八ヶ岳(やつがたけ)(ふもと)に位置し、厳寒期はワカサギ釣りで有名だ。  湖面に張った氷に穴を開け、糸を垂らして釣る様子が、テレビでも散見される。  この時期には、県内外から多くの釣り人が訪れる、有名なフィッシング・スポットなのだ。 「……つまり、犯行時刻のアリバイは無いと?」  ホームズ君の追求にたじろぎながらも、虎杖は答える。 「まぁ、無いっちゃ無いけどよ……スティード600に乗って、走り回ってたんだぜ? 俺を見たって人は、大勢居るだろうさ」 「フン、どうだか……。 で、ミスター鹿島とミスター馬場は、アリバイがあるのかい?」  鹿島は眼鏡のつるを中指でクイッと持ち上げる。 「虎杖の言うとおり、俺達は一緒に帰った。 帰宅後は部屋で勉強していたから、家族が証人だ」 「ぼ、僕も家に帰った後は部屋に籠もってゲームしてたから、親に聞いたらアリバイは証明できる」 「ふぅん……。 で、ミス南野。 キミは?」 「わ、私はB組の香織の部活が終わるのを待って、一緒に帰ったわよ。 昨夜の7時頃は家に居たから、アリバイはあるわ」 「ふぅむ……」  僕は重っ苦しい空気に耐えかね、たまらず尋ねた。 「ホームズ君、みんなアリバイも揃ってるし、これじゃあとても推理なんて無理だよね?」  しかしホームズ君は不敵に微笑む。 「確かに困難だが……きっと暴いてみせる。 名探偵と言われた、お祖父(じい)ちゃんの名にかけて!」 「オイ! 言っ……ちゃったよ!!」  昼過ぎから降り始めた粉雪は、大粒の牡丹雪に変わっていた。  雪国に闇夜が訪れるのは早い。
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