第6話  未踏の森

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第6話  未踏の森

 僕とホームズ君の捜査は、早くも暗礁(あんしょう)に乗り上げた。 「ホームズ君、どうしよう? このままじゃあ、第4の事件も起きかねない。 早く何とかしないと……」  ホームズ君は、ふてぶてしい笑みを浮かべる。 「おやおや……キミはまだ犯人が分からないのかい? あとは駒を操り、チェックメイトに導くだけだよ」 「えっ、もう犯人分かってるの!? 教えてよ!!」 「それは相棒のキミにも教えられないな。 ボクはヒントを言葉ではなく、行動で示している。 キミはそのサインを見逃さなければ良い」 「ホントに犯人分かってんのかなぁ……この人」 「失敬な。 あと数日の内には証拠を固めるさ。 真実は、いつも ひとつ!!」 「オイ、お前わざとか! そういう系のアレ言うなって!!」  自信満々のホームズ君をよそに、僕は頭を抱えた。  一体どこの誰が、何故こんな酷い事を……!  いくら考えても、僕の思考は深い森の中を彷徨うばかりだった。  鹿島と鉢合わせたのは、ホームズ君と廊下を歩いている時だった。 「やぁ名探偵コンビ。 その後、何か進展はあったか?」  僕は伏し目がちに答えた。 「いや、何も……」  鹿島は僕達に近づくと、眉間にしわを寄せた。 「馬場には気を付けろ。 あんなノイジーなオカルトマニアが、いざ事件が起こった途端、不気味な程しおらしくなってしまった」 「ば、馬場が? アイツは一番犯人像から遠いよ。 いつもあんなオドオドしてるのに」 「奴は劣等感の塊だ。 劣等感を持つ者は、自分以外のあらゆるものに否定的、攻撃的になることで、自分の劣等性から目を逸らそうとする」  ホームズ君が口を挟む。 「しかし劣等感を抱える人間は、一部の素晴らしいものを過度に神格化・礼賛することで、それ以外の全ての価値を相対的に均一化させようともする。 自らの劣等性から目を背けるために」 「フフッ……転校生。 なかなかどうして、核心を突いているじゃないか。 ま、人は見かけによらない、清濁(せいだく)併せ持つ生き物だ。 虎杖(いたどり)や南野さんにも言えるがね」 「キミも例外じゃないさ」 「ハハハ……確かに。 そして、お前等もな」  鹿島は薄気味の悪い笑みを浮かべながら、去って行った。  何とも言えない不快感だけが残った。  おおよそ学年トップの成績の 生徒会長が放つ言葉とは思えない。  でも鹿島の言った、人は清濁併せ持つ生き物という言葉が、僕の頭からいつまでも離れなかった。
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