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「ねぇ。ひとつ聞いていい?」
「な、なに?」
「これラブレターなんだよね?」
「まぁ……うん」
「だとしたら相当ひどくない?」
「で、ですよねー……」
山崎くんは苦笑いを浮かべる。私はさらに続けた。
「だってさ、まず名前。相手の名前も書いてないし自分の名前も書き忘れてる。これじゃ誰が誰に宛てたラブレターなのかわかんないじゃん。書いたならちゃんと確認しなさいよね。じゃないと名探偵でも解けない永遠の謎になっちゃうよ? そして何よりひどいのがその内容。堅苦しいやめる、とか最後まで頑張って書く、とか文章に赤ペンで修正しまくってて明らかに失敗作。間違って出したのか知らないけどこれはひどすぎるよ?」
「あー……やめて。自分でもその失敗に気付いて慌てて戻ってきたのに。それ読まれちゃってるんだもんヘコむわぁー。あー……穴があったら入りたい。むしろ埋まりたい」
彼はがっくりと項垂れぶつぶつと独り言のようなうわ言を呟く。
これは確かにメンタルへのダメージが大きいだろう。私も少し言い過ぎたかもなぁ。なんだかかわいそうに思えたので、とりあえず慰めの言葉をかけてみることにした。
「で、でもほら、失敗した手紙だし本人に渡さなくて逆に良かったんじゃない? 結果オーライだよオーライ!」
「……うん」
「あと、ラブレターはシンプルイズベスト。あんまり難しく考えないで伝えたいことを素直に書けばいいと思うよ。……私が言うのもなんか変だけど」
「……ははっ。ありがとう」
山崎くんは力なく笑った。
「えっと、じゃあ私帰るね」
なんとなく気まずい空気に私はさっさと帰ろうと教室のドアへ向かって歩き出す。しかし、すぐに山崎くんに呼び止められた。
「吉田さん!」
「ん?」
「あの……この事なんだけど……」
言いにくそうに視線をそらす。彼の言いたい事を察した私はわざと明るい調子で言った。
「ああ大丈夫。誰にも言わないから安心して!」
私の言葉を聞くと、山崎くんはほっとしたように笑った。
「次はちゃんと完成したラブレター渡しなね」
「……うん。気をつけるよ」
私はこくりと頷くと、今度こそ教室を後にした。
脳裏にはあの赤ペンの文字がハッキリと浮かんでいる。う〜ん、あの衝撃はしばらく忘れられそうにない。
それにしても、人生で初めて貰ったラブレターが間違いとは……。とんでもないインパクトである。
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