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須勢理は大国主命を中庭へ案内した。
神殿内において中庭と呼ばれる場所は、鍾乳洞であった。
天井から垂れ下がる長さの異なる逆円錐状の岩。その根元の一部から、僅かに光が差し込む。
弱々しい一筋の光は岩を伝わる雫を輝かせ、透明度の高い濃い青色の地底湖を映し出していた。
その眺めは、とても幻想的で美しい。
地底湖の周りを散策しながら、大国主は須勢理に感謝の言葉を伝えていた。
「あれほどの数の蛇は見たことござらぬ。須勢理毘売のお陰で命拾い致した。何かの手違いであったそうな。今宵は部屋を替えて頂けることとなり申した」
須勢理が意外であったのは、須佐之男命の酷い仕打ちに怖気づくでもなく、気後れするでもなく、平静を保つ大国主の様子であった。
この若い神は、将来大物になる予感がする。
ネズ乃が走り寄り、須勢理の肩に登り耳元で囁いた。
「今日はムカデと蜂だよ。まったくねぇ。男親ってのは」
ネズ乃の「男親ってのは」の言葉に合点がいった。
父神様は、ワタクシの心を勘違いなさっている。いえ、勘違いなさっているのではない。気づいていらっしゃるのだ。それゆえ大国主命を試していらっしゃる。
須勢理は大国主に待っているようにと告げ、急ぎ私室に戻った。
長持から取り出したのは、ムカデの比礼と蜂の比礼だった。
翌朝、ネズ乃からの報告によれば、大国主はムカデと蜂の晩をやり過ごした。
充分な睡眠で元気な大国主から、須佐之男命は朝の挨拶を受けた。
須佐之男命は、首を傾げていたそうだ。
須佐之男は大国主命を狩に誘ったようだ。
わざわざ地上の野へ行く。
父神は今度はどのような試練を大国主命に与えるおつもりか。
小回りのきくネズ乃へ須勢理は頼み事をした。
そっとついて行って、大国主命を手助けほしいと願ったのだ。
「このネズ乃にお任せあれ」
ネズ乃は胸を張って請け負った。
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