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子を宿した沼河は、これまで以上に精力的に国のために動いた。
高志国の重要な資源である翡翠は、年次計画的にそって発掘される。
鉱脈の位置と加工技術は、国の重要機密事項であった。
万事怠りないよう、繰り返し重臣と打ち合わせをした。
出産に合わせて、八千矛神は再び高志国の沼河の元へ現れた。
男児を出産した。
建御名方神である。
夫は横たわる沼河の髪を優しく撫でた。
「立派な御子を、よう産んで下さった」
とても満ち足りた気分だった。
精悍で麗しい夫に、うっとりと見とれた。
夫は赤子を腕に抱き上げると、まるで悪戯を告白するように赤子に語り掛けた。
「ソナタの父は、八千矛神の他にも名がある。多くの民はワレを大国主命と呼んでいる」
沼河は驚いた。
大国主命と言えば、根の堅洲国の須佐之男命の後押しで、近隣諸国を併合し、統一国家作りに奔走している。
あの大国主命なのか。
嫌な予感がした。
「もしや、我が高志国を併合するために、ワタクシと・・・・・・」
大国主命は切れ長の目を悲し気に曇らせて、首を振った。
「情けない事を言わないでおくれ。ワレが先に惚れたのだから、出雲こそアナタの支配を受けるのだよ」
沼河は一抹の不安を抱いたが、最終的には大国主の言葉を信じた。
赤子を産んだからには、夫の国を訪れなくてはならない。
国元を離れるのは心配だが、仕来りには従わねばならない。
大国主命とともに、沼河比売と赤子は出雲へ旅立った。
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