三番目の妻・沼河比売《ヌナカワヒメ》

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 子を宿した沼河(ヌナカワ)は、これまで以上に精力的に国のために動いた。    高志国(こしのくに)の重要な資源である翡翠は、年次計画的にそって発掘される。  鉱脈の位置と加工技術は、国の重要機密事項であった。    万事怠りないよう、繰り返し重臣と打ち合わせをした。  出産に合わせて、八千矛神(ヤチホコノカミ)は再び高志国の沼河(ヌマカワ)の元へ現れた。  男児を出産した。  建御名方神(タケミナカタノカミ)である。  夫は横たわる沼河の髪を優しく撫でた。 「立派な御子を、よう産んで下さった」    とても満ち足りた気分だった。  精悍で麗しい夫に、うっとりと見とれた。    夫は赤子を腕に抱き上げると、まるで悪戯を告白するように赤子に語り掛けた。 「ソナタの父は、八千矛神(ヤチホコノカミ)の他にも名がある。多くの民はワレを大国主命(オオクニヌシノミコト)と呼んでいる」  沼河は驚いた。  大国主命と言えば、根の堅洲国(かたすくに)の須佐之男命の後押しで、近隣諸国を併合し、統一国家作りに奔走している。  あの大国主命なのか。  嫌な予感がした。 「もしや、我が高志国を併合するために、ワタクシと・・・・・・」  大国主命は切れ長の目を悲し気に曇らせて、首を振った。 「情けない事を言わないでおくれ。ワレが先に惚れたのだから、出雲こそアナタの支配を受けるのだよ」  沼河は一抹の不安を抱いたが、最終的には大国主の言葉を信じた。    赤子を産んだからには、夫の国を訪れなくてはならない。  国元を離れるのは心配だが、仕来りには従わねばならない。  大国主命とともに、沼河比売と赤子は出雲へ旅立った。
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